漢江のほとりで待ってる
讃美歌が聞こえる。
牧師が何か言っている。
隣の女性が熱心に手を合わせ祈っている。
エトワールに乗っている場面と、それらが何度も何度も頭の中で繰り返される。
何か遠い昔に見たような、思い出せそうで思い出せない。
息が苦しくなり、眩暈がして来た由弦は、よろめきながら、何とか教会を出た。
早くこの場から立ち去ろうとして、慌ててエトワールに乗ろうとした。
荒々しい扱いで、そのまま乗り上げようとしたら、馬がびっくりして暴れ出した。
振り落とされそうになった瞬間、また事故の場面が頭を過った。
鞍を持ち損ねた由弦は、そのまま地面に振り落とされ、頭を叩きつけた。
気を失っている間、夢か現実か分からないものを見ていた。
頭の中に浮かぶ、正体の分からない、顔の部分だけがいつもぼんやりしている女性の姿が、見えそうだった。
靄のかかったものが、少しずつ消え、どんどん露わになって行く。
あの教会から出てくる女性、自分の馬に乗っている女性。
誕生日会に来ていたあの女性。
自分にどんどん近付いて来る。
「由弦……」
「由弦!」
「由弦?」
「由弦」
その声と共に、顔にかかった靄が消えて、鮮明な画像に変わって行った。
はっきりと見えた女性の顔は、あの人と重なった。
青木珉珠、彼女だった。