漢江のほとりで待ってる
弦一郎の宣言通り、慶太は副社長の職を解かれた。
本社でもそれが話題になっていた。
それを知った珉珠は、慶太のことが心配になり、慌てて慶太のいる副社長室へ急いだ。
入ると、慶太は荷物の整理をしていた。
「副社長!」と珉珠は声を掛けた。
「やぁ?珉珠君、聞いたようだな?全く~、副社長の席に戻る前に、首になるとはな」
「理由までは知りませんが、ほんとにお辞めになるのですか?」
「ああ!もう後には引けない。でも必ず這い上がってやる!」
「どうして、そんな急に」
「意地だ!私と父の。長年の確執!考え方の相違だ!あぁ、そうだ、こんな私について来る自信はないか?ないのなら、婚約を破棄しても構わないが。でも今君が破棄をすれば、世間は、財産がないと分かって簡単に婚約をやめた、やはり財産目当ての女!なんて言われるだろう。それでもよければ?だが」
その言葉に珉珠は少し呆れて、
「財産が欲しくて、副社長との結婚を決めた訳ではありません!あの時、副社長は純粋に、私にプロポーズをしてくれたのではないのですか?」
「確かにそうだ。でも今は、あの時とは少し違う感情が入り混じっている」
珉珠は溜息を吐いて、
「でしたら、こんな形でお受けするのは、やはり、間違っていると思います。私も今、副社長について行く自信がありません」
「だろうな。普通の女なら皆そうだろう。ならチャンスをくれないか?私が成り上がるまで。いや、今婚約を破棄されると、世間的にも私は、とてもカッコ悪い。だから、表向きでいい、婚約者として振舞ってはくれないだろうか?」
「なぜ、世間的に、なのですか?結婚する相手は、私ではないのですか?」
珉珠は哀しくなった。
「足枷にはしない」
そこには何の感情もないように、慶太は言った。
「愛情がないのなら、結婚をする意味がありません。互いに向き合えないのなら、表向きなんて私は無理です」
「こんなに頼んでもか?」
「はい」
「君はまさか、まだ由弦のことを?」
「……」
「そうなのか!?まだあいつを!?あいつを好きでいながら私と婚約したのか?」
「……」
「そうなら、尚のこと、君を離す訳にはいかない!」
「違います!あの時は本当に副社長について行こうと思いました」
「ならなぜ!」
「今の副社長は、私を見てくれていません!ご自分しか見えていない……とにかく私は気持ちをお伝えしました。これ以上はお話することはございません。失礼致します」
珉珠は一礼して足早に出て行った。
この日から、薬指の指輪を外した。