漢江のほとりで待ってる
二、三日経って由弦は本家に顔を出した。
由弦が戻るとあって、あの日の誕生日のメンバーが揃った。
ギクシャクした弦一郎と慶太も、せっかく由弦が戻って来る素晴らしい日に、二人のそんな姿を見たら哀しませる、その日だけでも仲良くするようにと、雅羅はきつく二人に言い聞かせ、何とか出席させた。
由弦が入って来ると、すでにみんなは揃っていた。
珉珠は、久しぶりに見る由弦に、ドキッとした。
「遅くなってすみません」
「おかえりなさい、由弦さん、退院おめでとう。さぁ、あなたは珉珠さんの隣に」
気を利かせて雅羅が言った。
「なぜですか?彼女は兄貴の隣が自然でしょう?僕はここでいいです」
と、雅羅が勧めた席より、一番離れた場所に座ろうとした。
「今日は由弦さんが主役なの!それなら、お父様の隣に座りなさい」
と雅羅は言った。
言われるまま由弦は、上座にいる弦一郎の隣に座り、由弦の隣に一条が座った。
弦一郎の向かいに雅羅が座り、その隣に慶太、珉珠と座った。
慶太は何気に、珉珠の左手を見て、指輪が外されているのに気が付く。そして落胆した。
久し振りに見る由弦は、どこか雰囲気が違った。
とても冷めたい目をしていた。慶太以外、それは誰もが感じていた。
それでも由弦はとても冷静で、時に笑顔を見せるものの、あの時のきらきらと輝いた目ではなかった。
そして、誰とも目を合わせることはしなかった。
誰かが話す時も、いつもなら相手の顔を見るのに、今日の由弦は、ただ一点を見つめているだけだった。
「退院おめでとう」と弦一郎の言葉にすら、目を合わさず、「ありがとうございます」と、どこかよそよそしく会釈するだけだった。
ムードメーカーの由弦はいない。
あの時の誕生日とは、全く違って、静かに食事を囲んだ。