漢江のほとりで待ってる

堅苦しい雰囲気の中、弦一郎は例の話を始めた。

一通り、一条から聞いていた由弦は、快諾した。

ただ、

「条件があります」

と由弦は無表情で言った。

「今後は高柳ではなく、小田切としてやらせてほしい。小田切由弦、一人の人間として生きて行きたい」

そう弦一郎に訴えた。

弦一郎はすぐに返事が出来なかった。

「聞いてくれ由弦、私は、お前の母さんに、お前のことを幸せにしてやってくれと、頼まれたんだ。私はその責任をまだ果たせていない」

「なら、もう自由にしてください」

「……!!」

「オレを自由にしてくれたら、その責任も果たされると思います」

由弦は淡々と言った。

「由弦、本気で言っているのか?」

弦一郎が顔色を伺うように言った。

「はい」

みんなは、由弦の変わりように、言葉が出なかった。

「話はそこそこにして、せっかくのお食事が冷めてしまうわ?さぁ、由弦さん召し上がれ」

と雅羅が、その場の空気を変えようと、由弦の皿に取り分けてやった。

「母上、母親パワー発揮ですか?」と慶太は、空気が分からず相槌を入れた。

「オレの母親は、小田切琴乃、ただ一人ですから!お気遣いは無用です」

その言葉に、皆はまた気まずくなった。

いつもの由弦ならそんなことは言わない。

あまりの由弦の挑発的な発言に見兼ねて、

「高柳どうしたんだ?」一条も止めに入った。

由弦はナプキンで口を拭くと、

「いや?別に何も。あ、そうだ、遅くなりましたが、この度は、ご婚約おめでとうございます。どうか末永くお幸せに」

由弦は二人に向けて言った。

珉珠と慶太は返事に困った。

「それではこれで失礼させて頂きます」

軽く一礼して、その場を去ろうとした。

「由弦、待ちなさい!」と弦一郎が止めた。

「なんでしょう?あぁ、総合プロデュースの件、高柳の姓で最後に受けても構いませんよ。でもホントにそれが最後でお願いします。あとはもう放っておいてください。では」

弦一郎の話も聞かず出て行った。

「あいつ……」一条が呟いた。

珉珠は由弦のあとを追いかけた。

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