漢江のほとりで待ってる
「専務……母が、倒れたんです……」
「お母さん!?青木さんの?」
うなずく珉珠。
「すぐに帰った方がいい!」
「そんな簡単じゃないんです!」
「えっ!?どう言うこと?」
その場では言いにくそうに言葉を詰まらせる珉珠に、由弦は思わず彼女の手を掴み、会議室に連れ込んだ。
「どう言うこと?」
「母のいる所は韓国なんです」
「ん?……うん、そうなんだ?それで?なんですぐに帰れないんだ?気になって仕方ないはずだろ?」
「でも仕事が……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!気にしなくていいから!!オレが何とかする!今すぐ韓国に向かうんだ!親にもしものことがあってからじゃ後悔しきれないぞ!」
由弦の一言で目が覚めた珉珠。
「空港まで送るよ!」
そう言って彼女を車に乗せ空港へ。
着いてすぐ、出来る限り出発の早い便で空きがあるか確認し、チケットを購入した。
「十九時四五分の便か。二二時過ぎには向こうに着くと思う。何でもっと早く言わなかったんだ、バカだな」
「……」うつむく珉珠。
そして、由弦は自分のスマホの電話番号をメモに書いて、それを珉珠に渡した。
「何かあったら連絡して?気を付けて行くんだよ?一緒に行ってあげたいのは山々なんだけど……」
「ありがとうございます……分かってる!その気持ちだけで充分だから」
会社で見るキリっとした珉珠からは、想像もできない弱々しい姿。その姿でさえ愛しく思えた。
「こんな時にオレは何を……」自分に呆れる由弦。
搭乗手続きを済ませ、搭乗ゲートに歩いて行く珉珠を見送った。