漢江のほとりで待ってる
逆襲の彼方
椿氏と共に、日本に戻った由弦は、血塊を取り除く手術を受けた。
視力は回復したものの、飛び込んだ時の衝撃が、事故で骨折した左足にもダメージを受け、右半身麻痺に加え歩行を困難にさせていた。
リハビリをしながら過ごす毎日。
けれど、以前のように身が入らない。
事故後のリハビリの時は、まだ、珉珠が傍にいてくれたから、そんな支えがあったから、どんなに辛くても耐えられた気がする。
祖父である椿氏のもとで、生活を始めた由弦。
母の生まれ育った小田切邸を、母のいた形跡を探すように散策した。
中庭には、定期的に庭師に管理されていると思われる、日本庭園が広がっていた。
「どこかのお寺の庭園みたいだな……」呟いた。
大広間から覗く庭園は、まるで額縁に納まった一枚の写真のように美しい。
自分の母もこれを眺めていたのだろうか?目を閉じる由弦。
琴乃の目線で、少しでも母がここで過ごした時間を、母そのものを感じたかった。
それから、各部屋を回り、高そうな掛け軸や置物、椿氏が描いたと思われる墨絵などを見て回った。
最後に行きついた場所、それは母の部屋。
わざと一番あとに残して置いたように思える。
組小細工で施された障子戸を開けると、あの庭が眺められ、明るく、温かな日差しに包まれた、優しい空間が広がっていた。
細々としたものはなく、本や絵など、ノートやペンがそのまま置かれてあり、まるで、まだここで琴乃が生活しているかのように思えるほど、全てそのままにされていた。
昭和レトロな文机には、弦一郎と出会う前の、祖父と笑顔で写る母の写真が置かれていた。
その横には、最近置かれたと思われる、自分を抱く母の写真が横にあった。
—————— 母さん……
琴乃がまだいるようで、その影を追いながら、母の匂いと共に優しく包まれた気がした。
「起きていたのか?」
母の思い出に浸る由弦の後ろから、突然、椿氏が声を掛けた。
由弦は一瞬驚いた。
「……」
「ちゃんとご飯も食べなさい」
そう声を掛けると、椿氏は出て行った。
引き取ってから、由弦はあまり口を利かない。
食事もあまり取らない。
椿氏は心配していた。