漢江のほとりで待ってる
由弦のことが心配で、日本に戻って来た仲里は、椿氏の家に行ってみることにした。
まず仲里は、その邸宅の広さに驚く。
「でかっ。ザ、日本家屋!趣のある、古き良き時代の日本邸宅!?」独り言を言いながら、仲里は部屋に通された。
明るくて広く、天井の高い居間には囲炉裏もあった。
さらに奥へ進むと、和室があり、そこに椿氏、小田切仲親がいた。
「よく来たね?」優しい笑顔で迎えてくれた。
椿氏から、まだ麻痺が残り、リハビリをしようともせず、まるで魂が抜けたようで、目を離したらどこかに消えてしまいそうで心配だと、現在の由弦の状況を聞かされた。
庭園が見える縁側に、由弦はいた。
実際に会ってみたが、椿氏の言うように、生死の境にでもいそうなほど影が薄く、いつもの元気で存在感のある、明るい笑顔の由弦はそこにはなかった。
彼の描く絵のように、また初めて会った時の自分のハートを掴んで離さなかった、あの強烈な印象はどこにもなかった。
仲里は、何だか悲しくなった。
自分に気付いて、由弦は笑い返してくれるが、自分を見ながら、どこか遠い所でも見ているような目をする。
—————— 私を見ていない。
現実から目を離し、死ぬことを考えていそうで怖かった。
当然、話しかけても上の空な返事しかない。
自分では元の由弦に戻せないのか?どうしたら振り向いてくれるのか。
「やっぱり、青木さんなんですか?」
遠くを見つめる由弦の背中に、そっと呟いた。
しばらく二人で景色を眺めた。
交わす言葉は何もない。
静かに時間は流れた。
「また来ますね?」
仲里は由弦の腕を軽く掴んで言った。
由弦は笑い返してうなずいた。
小田切邸をあとにした仲里は、変わり果てた由弦の姿と、何も出来ない自分にショックと歯がゆさを覚えた。