漢江のほとりで待ってる
毎日の由弦を見ながら椿氏は、ある可能性に賭けた。
由弦を追い詰めた弦一郎達に対して、報復に出るかどうか。
臨時株主総会で、由弦の力添えをする約束で、弦吾と交わした条件の中に、もしも由弦に何かあった場合、彼の有無なしに、本家にいる者全員を追い出し可能としていた。
「高柳家を思うがままに、遺産は全て由弦に!」
弦吾は椿氏に託していた。
韓国から戻って来た、弦一郎を椿氏は訪ねた。
突然の訪問に、うろたえる雅羅をよそに、弦一郎は椿氏を応接室に通した。
お茶が出された時だった。
「由弦の部屋は?」と椿氏が尋ねた。
「はい!?」
「孫の部屋はどこかと聞いているんです」
「あ、いや、それが~」
「無いと!?なら由弦はどこで暮らしていたのですかな?」
弦一郎はどもりながらも、日本に戻って来てからは、マンションを借りて一人暮らしをしていたと答えた。
事件後(事故のこと)は、色々あり行方をくらませたのち、アトリエとして、小さな一軒家を借りていたことを明かした。
それを聞いた椿氏は、憤怒した。
「ならここには、由弦の部屋は無いと!?こんなにたくさん部屋はあるのに!?」
「……」
「なぜ我が息子の部屋の一つも用意せず呼び戻したのかね!」
「いえ、由弦が、一人暮らしに慣れているから、ここでは暮らさないと……」
「本人がそう言ったから?それでもいつ帰って来てもいいように、部屋を用意しておくのが親というものだろう!一人暮らしに慣れてる?君達に遠慮して言ったに決まってるじゃないか!よそ者同然の自分がいきなり来たら迷惑だと気を使ったのかもと、そんなふうに考えなかったのかね!ずっと独りで生きて来て、初めて父親に戻って来いと言われて、どんなに嬉しかっただろうと、由弦の気持ちも分からなかったのか!親に戻って来いと言われて、嬉しくない訳ないだろう!一緒に暮らせると期待だって子供ならするはず。いざ戻って来たら、部屋が用意されてなかったなんて、そんなこと目の当たりしたらショックを受けるに決まっているだろ!二、三日泊まるお客さんのつもりだったのか!あの子の淋しさを少しでも分かろうとはしなかったのか!琴乃だけじゃ飽き足らず、我が子までそんな思いをさせて……琴乃も由弦も君の慰み物じゃないぞ!道具じゃない!」
椿氏は、ついに激怒した。
弦一郎は椿氏の言葉に、自分の浅はかさを思い知らされ、項垂れた。
「この家での由弦の扱いがこんなにも酷いとは思わなかった。まだ由弦がここで暮らしていたと言うなら、許容の余地もあったが、とても残念で悲しいよ。ソウルで言ったように、君達一家をここから追い出す!由弦の味わった苦痛を少しでも思い知るといい!」
声を荒げた椿氏は、応接室を出て行こうとした、弦一郎は止めたものの、椿氏のあまりの激情に圧され、阻止出来なかった。