漢江のほとりで待ってる
そして夕方。とある高級レストランでの二人。
「今夜は副社長、わざわざ……」
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。今夜は君のために用意したんだ。ゆっくり堪能してほしい」
「ありがとうございます」
「母上のこと、何かあったらすぐに言ってくれたまえ?でないと由弦に怒られてしまうからな」
「ありがとうございます。ところで~副社長、副社長はボランティアに興味などお持ちですか?例えば、寄付など……」
「ボランティア!?またいきなり接点のない所から話が出たね。いや?私は自分の利益にならないことはやらない主義だ!それにどこの馬とも骨とも分からない集団に、まして名の知られていないような所なら尚更だ!仮に私が寄付することによって、利益が生じるなら別だがね?はは、それじゃボランティアにはならないか。宣伝になるような?それ如きの理由では、ボランティア精神は私の中では生まれない!見ての通り、私はお人好しではない。慈善事業はやらない!」
「そうですか」
「ご期待に添えるような返事ではなかったかな?」
「いえ……」
長年慶太に使えて来て、彼がどういう人間かは分かっていたつもりだったが、また慶太に期待していた訳ではないが、少しショックを受けた珉珠。
兄として由弦にむけた気持ちや表情には嘘がないように思えた。そんな優しい一面を持っていると信じたから、珉珠の中で少年イ・ジュンと寄付をした人物、パク・ジュウォンが慶太であって欲しかった。でもそこまで言いのけてしまうのなら、副社長ではない。
―――― そうよね?仕事一筋の副社長。仕事以外他に興味を待たない方。私に仕事のノウハウを教え込んだのも、ご自分の仕事をスムーズに、効率よくするため。このディナーだって、由弦に言われたから。副社長な訳ないことくらい考えればすぐ分かるのに、私ってバカだ。
由弦……何してるのかしら。まだ仕事してるわよね。
……由弦!?まさか、由弦!?いえ、そんなことあるはずがない!だって十年も前なら、彼はまだ十五、幼すぎる。そんな少年に多額の寄付なんて、まして十年間も続けられるはずがない!なら一体誰なんだろう……
由弦は選択肢から外れた。珉珠には、他に思い当たる節はなかった。
―――― はぁ~。
由弦……私って最低だ。あなたに好きだと告白されていながら、あの日(初めて二人きりでランチした日)、あなたの前で、副社長の話なんか聞いたりして。あなたの気持ちなんか考えもしないで。例え気持ちがないとは言え、今あなたじゃない人と二人きりで食事してる。誰だって好きな人が、異性と二人きりでいることなんて、心穏やかでいられるはずなんかない……ごめんなさい、由弦。
珉珠は色んなことを考えながら、深く反省した。
「青木君どうした?口に合わないかな?食が進んでないみたいだが?」
「!?いえ!副社長と二人きりなんて、めったにないので、少し緊張してるのかもしれません」
「ふっ。君も緊張するのか。意外だったな」
珉珠は俯いた。
慶太との会話は仕事の話と時折由弦の話、あとは沈黙。
淡々とした時間は流れ、終わった。まるで仕事の延長のようだった。
「今夜ご馳走になりました。ありがとうございました。副社長」
「いやいや。こちらこそありがとう。本当に母上の件すまなかった」
珉珠は首を横に振り応えた。
慶太は車を呼び、珉珠を送り届けた。