漢江のほとりで待ってる
高柳グループでも、年明けの挨拶を終え、心機一転始めようと思った社長室の由弦、椅子に座った。
が、今一つ心が晴れない、何かが足りない。
自分のやるべきこと、自分の本来の居場所を分かっている、だが、なぜか行動に移せない。
そんな日々を繰り返しながら、普段通りにしているつもりの由弦の内心を、珉珠は見透かしていた。
悩む由弦の心を見逃すはずもなかった。
ある日二人で会っている時、
「由弦?思っていることがあるなら、あなたの思うようにしていいのよ?」
「えっ!?」
珉珠は笑ってうなずいた。
「でも……」
「言ったはずよ?あなたがどうしようと、私はあなたから離れないって、どんな結果になろうと私はあなたについて行く、あなたの傍にいる」
珉珠の心強い後押し。
由弦は改めて決心がついた。
この社長の座を、慶太に返すこと。
その旨を慶太達にも伝える。
慶太は、驚きながらも、自分は一度堕ちた人間、しかも社長を首になった身、そう簡単には戻れないと断った。
けれど、由弦は引かず、
「オレは、兄貴達を辞めさせたことは後悔していない。けど気付いたんだ。兄貴は生まれ時から、社長になるべくして育って来た、野生児のオレとは違う。兄貴にはその素質がある。いつか、兄貴はオレを羨ましく思っていたと言ってたけど、兄貴はそれ以上に、人を引き付ける魅力がある。それに自分自身気付いていないだけ。オレは足元にも及ばない。一度堕ちたと言うなら、底を知った人間だからこそ、兄貴にしか出来ないことがあると思う。底力見せてくれよ!オレが憧れた兄貴だ、大丈夫!」
慶太に素直に気持ちを打ち明けた。
取締役会でも、また投資家達も、兄であり、副社長だった慶太を辞めさせておいて、あえてまた「慶太を社長に」という由弦の発言に、ひどく困惑し、動揺させた。
それでも、由弦は必死で慶太を再び高柳に戻すことを訴え続けた。
納得させるは、「高柳慶太なら、現状維持ではなく、更なる飛躍!投資に損はさせない!自然と人に優しい還元型!」
そして慶太も自ら立ち上がり、当初の、冷静でいつも自信にみなぎっていた頃を思わせるような立ち振る舞い、さらに磨きのかかった答弁を見せた。
まるで城に本当の王が戻ったようだった。
由弦は、更なる発展を慶太に託す。