漢江のほとりで待ってる
週末、由弦と珉珠はあの教会にいた。
久し振りにエトワールとも再会し、思い出の森を感慨深げに散策した。
夏とはまた違った、幻想的な冬景色を見せていた。
優しい木漏れ日が差し込む、教会の椅子に、二人座った。
「兄貴に秘書のオファーもらったって?」
「えぇ、でも断ったの」
「どうして?」
「出たり入ったりなんて出来ないし、ほんとに高柳には戻るつもりもないの。自分一人くらいどうやってでも生きていけるから。ずっとそうだったし」
「長年高柳でやって来たのに、オレと出会ったがために、人生狂わせたね」
「……!?狂ってなんかないわ?とても面白い展開になって、刺激的な人生になってきたわよ?」
その言葉に苦笑する由弦。
それからマジマジと珉珠の顔を見ながら、橋桁落下の際に出来た額の小さく残った傷に目をやる。
「女の子なのに……オレが毎日クリーム塗ってあげるよ。あなたなんだろ?オレの頬に毎晩クリーム塗ってくれてたの。寝ぼけ眼で微かに覚えてる。ある朝何気に鏡に映った自分の顔を見て、傷が薄くなってるのに気付いたんだ」
「そう?よかった」傷があったであろう部分に、珉珠はそっと触れた。
「うん、ありがとう。だからオレもしてあげる。オレに愛情いっぱいくれた分、オレもあなたに愛情いっぱいあげる」
「楽しみにしてる」
「一度あなたを失って、初めて気が付いた。オレの人生、会社にいても漢江へ行っても、あなたがいないと何の意味もないってこと。意外だと思うだろうけど、あの漢江で、あなたが傘を向けてくれた時、初めて生きてるって実感したんだ」
優しい顔で、黙って聞いている珉珠。
由弦は立ち上がり、珉珠の手を引いて、教会の中央へ連れて行った。
「自分一人くらいどうやってでも生きていけるって言ってたけど、そのあなたの人生を、オレに預けてくれない?」
「……!?」驚いた表情をする珉珠。
「オレは、クリスチャンじゃないけど、永遠の愛をここで誓うよ。全ての神様に。
オレと結婚してください」
「本気?」
うなずく由弦。
感極まる珉珠。
「大切にしてください」
「はい!」
抱き合う二人。
珉珠の目に涙が滲む。
由弦は、珉珠が付けてくれた指輪の通ったネックレスを外し、母の形見の指輪を珉珠の右の薬指にはめた。
「どうして右手なの?」
「左手は一度はめたろ?結婚指輪も右手にはめてあげる」
笑って由弦は言った。
珉珠の瞳に、
―――― あなたに永遠の愛を誓う。
呟く由弦。
そして誓いのキス。