漢江のほとりで待ってる
あとがき
めでたく慶太は社長に返り咲き、高柳邸に戻った。
祖父である弦吾も、表現下手ではあったが、喜んでいるのが分かった。
結婚の挨拶に、由弦と珉珠は来ていた。
弦一郎は、由弦が小田切家の名前を継ぐことに、快く賛成できないでいた。
「名前が違っても、オレが父さんの子であることに変わりはないだろ?オレは父さんが守れなかったものを守りたい。だからオレは小田切の名前を継ぐよ。兄貴は高柳を、オレは小田切を守る。兄貴がピンチの時には一番に駆けつけるよ」
由弦の成長ぶりに、弦一郎は言葉なく、ただただ感動した。
「でも意外だったよ、父さんが、オレの母さんと出会った時、笑顔の優しい人だったなんて」
「何の話だ?」
「何でもないこっちの話」
高柳邸では温かな時間が流れていた。
それからそれぞれのエピソードがあった。
会社での一幕。
社長室に、書類を届けに来た仲里に、慶太が、
「元気かい?そうだ!今夜一緒に食事でもどうかな?」
「今仕事中です!ご冗談はお止めください!失礼します」
出て行ことする仲里のあとを追い掛け、
「そう言わずに!待ってくれ!仲里君、正式に私とつき合ってくれないか?」
「だ、だからここは会社です……」
拒みながらも、一押しを待っている様子の仲里に、慶太は抱き寄せた。
「社、社長!だからここは会社だってば!」
仲里の強張った体の力が抜けた。
慶太を受け入れる仲里、慶太はさっきよりも強く抱きしめた。
何かが始まる予感。
またもう一つのエピソード、
珉珠と美桜が、靴を選んでいた。
「お洒落は足元からと言うように、魔法にかかったように素敵な場所に連れて行ってくれたり、素敵な出会いが待っていたりするの」
珉珠の言葉に、美桜は刺激された。
それからランチを楽しんだ。
「約束守ってくださってありがとうございます」
「どういたしまして、いつにしようかずっと考えていたのよ」
「正直口約束かなって、期待しないで待ってたんです。だからとても嬉しくて」
「そう?私は出来ない約束はしない。でも喜んでもらえて私も嬉しいわ」
「……もうすぐですね」と突然、寂しげに言う美桜。
「ええ」
「アメリカか~何だか淋しくなりますね」
「遊びに来て?待ってるわ!」
未来を見据えた、旅立ちもあった。
由弦と珉珠は、もう一度やり直すべく、アメリカへ。
のちに、由弦はリハビリを続け、作家として起業家として二足の草鞋を履く、また天才クリエイターとして返り咲いた。
秘書だった珉珠が、大企業の社長夫人になったことは言うまでもないが。