漢江のほとりで待ってる
二〇時前、由弦はアメリカから日本に戻って来て、初めて本家に顔を出した。
「やっと来たな?待ってたぞ!お爺様もお待ちかねだ」と慶太。
「門からここに来るまでの距離があり過ぎだよ!歩くと軽く一時間はかかるんじゃない!?相変わらずのセレブぶりだね!」
と皮肉めいた挨拶をした。
高柳グループの会長の住まいは、敷地の大きさはもちろん、門から玄関までのアプローチも長く、玄関付近には芝生が敷き詰められている。門構えも外装も内装も海外のセレブの住まいに劣らないほどの高級感を漂わせていた。部屋数も軽く十は超える。もちろんプール付き。
「ご挨拶だな!」慶太は笑った。
「お帰りなさいませ、由弦坊ちゃん」と高柳家の専属弁護士兼、執事の椎名が出迎えた。
「椎名おじさん、お久しぶりです。小さな頃は兄貴とよく遊んでくれましたね。あの頃と全く変わらない」
笑って由弦は返した。椎名は首を振りながら照れた。
久しぶりに帰った我が家。奥へ進むと、お爺様と父上、そして義母様が待っていた。そしてさらに珉珠の姿も。
由弦はまさかの彼女の姿に、嬉しさが込み上げた。お互い目が合うなり笑顔を見せた。
この時、二人のアイコンタクトに、弦一郎は二人の関係に気が付いた。
それを遮るように、祖父の弦吾が声を掛けて来た。
「由弦よ!元気にしてたか?アメリカへ行ったきりで、戻って来ても顔の一つも見せないで!」
「すみません。お爺様。僕は元気ですよ。お爺様もお元気そうで安心しました」
そう言うと由弦は父と義母の一人一人に挨拶した。
「誕生日おめでとう!高柳」一条まで駆けつけてくれた。
「おぉ!一条来てくれたのか!ありがとう」
「今日はお前の誕生日とプレゼン成功のお祝いのためにみんな集まったんだぞ?」
と慶太が言った。
見ると豪華な食事が並べられていた。そして慶太からプレゼントを渡された。開けてみると、高級感漂う万年筆だった。
「これでお前も一人前だ!大事に使うんだぞ?使うごとに使い手に馴染んでいくから。まぁ、プレゼント選びも大変だったぞ?大人になってからのお前の好きそうなものはリサーチ出来てなかったからな。青木君に一緒に選んでもらったんだ」
「そうだったんだ?ありがとう兄貴」
あの日、慶太と珉珠が楽しそうに店にいたのは、自分のプレゼントを選んでいたのだと、この時分かった。
そして父からは、代表取締役兼専務という役職に付く話をされた。しかし由弦はそのことについて深く考えてはいなかった。
「今日の料理は、母上の手作りだぞ!お前のためにな?」と慶太。
「そうなの!?お義母様、ありがとうございます。こんなに嬉しいことはないです!」
「そんなにかしこまらないで?たくさん食べてね?あなたのために作ったんだから」
「由弦!誕生日おめでとう!」と慶太。そのあと続いて、みんなも「おめでとう!」と笑顔で由弦を祝った。
和やかな雰囲気で由弦達が話している中、二人の父である社長、弦一郎(六三)が珉珠を、別室に呼んだ。