漢江のほとりで待ってる
慶太の執着
由弦と珉珠が出て行ったあと、しばらく慶太は考えていた。すっきりしない、引っかかることが一つあった。
それは父、弦一郎が何の意図で、なぜ由弦を代表取締役に兼任したのか……だった。
慶太は、直接、弦一郎に聞いてみることにした。そして弦一郎のいる書斎へ向かった。
「父上、少しよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「単刀直入にお聞きします。由弦を専務ではなく、代表取締役に兼任したのはどういうことでしょう?」
「あぁ、そのことか。別に深い意味はない。ただ、由弦にも、肩書だけでなく、高柳家を担う者として自覚を持たせるためだ。株主総会では、由弦はすでに選任された。今度の取締役会で正式に任命する。」
「しかし、代表取締役となると、会社の代表権などを~」
慶太が言い終わらないうちに、弦一郎は言葉を吐いた。
「何を心配しているんだ?慶太。この会社の後継者はお前だ!お前の良き右腕になるはずだ!由弦はお前の邪魔になるようなことはしない!お前が不安がるほど、あの子にそんな欲はない!まして後継者になろうなどと考えてもいないだろう」
「は、はい。でも、」
「お前は何も気にせず、今の職務に専念すればいい!何も心配はいらん!」
「……」
いつも父を前にすると、思っていることが上手く言えない慶太。書斎を出て自分の部屋に戻り、思わず机の上のものをめちゃくちゃに散らかした。自分に歯痒さを覚える慶太だった。
そして、高柳専属の弁護士であり、執事の椎名氏は、慶太を心配する母親の傍らで、彼もまた慶太を気に掛けていた。
「坊ちゃん?大丈夫ですよ!何かあれば必ずお守り致しますから!」
と苦しむ慶太に、優しく問いかける椎名だった。
「分かってる、分かってるんだ……」
机に両手を付いて俯く慶太。