漢江のほとりで待ってる
試合は始まり、やはり中でも由弦の活躍は一際目立っていた。特に守備に関しては。
スライディング、ダイビングキャッチはお手の物。守備の範囲を超えるほど走る回る由弦に、会長もスタンドの観客も沸いた。
VIP席で、つまらなそうに腕を組みながら見ている慶太。何気にスタンド席に目を移すと、珉珠がいた。
彼女の視線の先に目をやると、そこには由弦がいた。しばらく見ていると、由弦が活躍する度、珉珠は今まで見たこともない笑顔をしていた。
由弦がバッターボックスに立てば、まるで自分が打つかのように、真剣な眼差しで祈り、打てば誰よりも喜んだ。
彼女は由弦ばかり見ている。いや、彼女にはもう由弦以外誰も映らないかのようだ。その視線に慶太は気付く!
―――― まさかっ!!彼女は由弦を!?一体どうして彼女が由弦を!?
嫌な予感がする慶太。
回は進み、高柳グループリードの中、九回の裏、三対五。相手側の攻撃。ツーアウト満塁。一発出れば、相手側の逆転勝ち。
そんな場面でも、大会始まって以来の、神業とも言われるファインプレーを会場にいる観客に、由弦は見せつけた。
相手側のバッターが高く打ち上げたホームランボールを、フェンスに飛び乗り、柵を蹴り上げ、観客が固唾を呑んで見守る中、由弦は飛んだ。
その瞬間スローモーションのように見えた。そして空中でキャッチ!その高さがハンパなかった。マウンドに降り立った由弦に大歓声が沸き起こった。
恐らくこれがプロなら、歴史上に残る美技、名プレイとなっていたであろうほど。
その時慶太は、望まなかった結果に、拳を強く握った。
そして珉珠を見ると、あの冷静な彼女が飛び跳ねて喜んでいた。それを見てさらに嫉妬心に似た憎悪が込み上げて来た。
珉珠に気がある訳ではないのに、横取りされたような気持ちの慶太。それも快く思っていない相手から。
たくさんの人間から称賛される由弦の姿を見て、幼い日のことが思い出された。