漢江のほとりで待ってる
―――― あいつは、由弦はいつもそうだった!私が努力して築き上げて来たものを、あいつは一瞬にして手に入れる!そして私から奪って行く!気付けばいつもあいつの周りには人が集まり、楽しそうで……父の愛情も、あいつは独り占めしていた!父は私に笑顔なんて見せたことがないのに!また青木君も、私と十年以上も一緒にいて積み上げて来た信頼関係を、昨日今日来たようなガキに持って行かれるなんて!!なんでいつもそうなんだ!!いつもあいつが私の邪魔をする!!いつもあいつが、私の全てを壊して行く!!
胸の中で怒りが込み上げる。勝利を分かち合うマウンドの由弦を、憎々し気に睨みつけた慶太。
そこへ、高柳チームのユニホームを着た珉珠が入って来た。
それを見て慶太は、
「君がそんな格好をするとはね~、意外だった」
「すみません。急いで来たもので、皆様がお待ちです、副社長」
「あ、ああ、分かったすぐに行く」
試合が終わり、授賞式に移った。そこへ慶太も現れた。
敢闘賞、盗塁王、最優秀投手賞、監督賞など、それぞれを労うため、副賞も与えられた。
そして、MVPは文句なく、神業を繰り出した由弦に与えられた。
「素晴らしかったぞ!由弦!流石だ!」
盾と副賞を渡しながら、お爺様である会長が由弦に目を細めた。そして相手側の会長にも労われた。
「私の孫ですよ!」とお爺様。
「おぉ~、彼が~?また立派なお孫さんですな」
高柳会長が喜ぶ中、
「ありがとうございます。お褒めに与り光栄です!」
由弦は無邪気な笑顔で答えた。
そこへ、
「見てたぞ!由弦。お前の活躍には目を引いたぞ!」
自分の感情を抑えて由弦を労った慶太。
「立派なお孫さんが二人もおられて、会長も安泰ですな!」
「いやいや~、とんでもない。しかし今年も会長とこうして、野球が出来たことが、何よりも幸せですな」
二人の会長が談笑の中、慶太は顔が引きつっていた。
―――― このままでは呑まれてしまう。奪われたものを奪い返さないと!いや、奪われる前に奪ってやればいい!由弦だけは絶対にダメだ!!あいつだけは絶対に!!
この時慶太は誓った。
盛大な打ち上げが行われ、今年も無事野球大会は終わった。