漢江のほとりで待ってる
副社長室に戻った慶太は、あとからあとから込み上げてくる怒りを抑えられずにいた。持って行きようないその感情の矛先は、やはり由弦に向けられた。
―――― お前さえ来なければ全て上手く行っていたのに!あの青木君までさらって行くとはな。心が石のように硬い彼女が落ちるなんて。
慶太はそう思いながら、二人の接点を思い返した。
由弦の誕生日の日、由弦自ら珉珠を送ると言ったこと、いやそれ以前に、自分を振り払って由弦を追いかけて行った珉珠。もっと遡れば、既に出会った時から二人は何かを感じていたのか……!?と振り返る慶太。
慶太は、珉珠に関しては、自分のコレクションの一つを奪われたような気がしていた。それが何より我慢ならなかった。
そしていつも振り払っても振り払っても、幼い頃の記憶が慶太を追い詰める。
由弦の母親が亡くなってからしばらくは、由弦と一緒に暮らしていた。
父である弦一郎は家に帰って来て、いつも一番に由弦を抱き上げ、優しい笑顔でただいまと話し掛ける。慶太には、目もくれず。
ただただ、由弦は母親を亡くして可哀想な子だから、優しくしてやれと父に言われるばかり。
由弦を抱き上げた父の背中を見送るだけの、淋しそうにする慶太に、いつも椎名氏が側にいてくれた。まるで父親代わりのように。
そしてその度に母親である雅羅も来て、抱き締めてくれた。
父親に愛されないこの苦しさは誰にも分からない!!
その父がまたしても由弦に愛情をかけた。由弦誕生日の日。
―――― 代表取締役兼専務!!会社の代表権だぞ!あいつは会社の事に口出ししていい権限を持っている!つまりあいつが高柳グループの社長だ!ふっ!最高のプレゼントじゃないか!それに引き換え私は……私はただのお飾りか!
慶太の中で何かが壊れた。
倫理や道理に外れたとしても、分かっていても、止められない慶太の執着(復讐)が始まる。
本当は純粋なまでの慶太の悲哀が、由弦を苦しめることで彼の心の痛みを癒して行く。