漢江のほとりで待ってる


クリストファーの引退説まで囁かれていた中、今回の彼の露出に慶太は、クリストファーの絵画展を開くこともマスコミに示唆した。

これを受けて、クリストファーのテレビ出演も決定し、由弦が悪戦苦闘する中、彼は今回、お菓子メーカーのデザイン画を依頼された場合、どのような方向性にするかなど説明し、また、今回開催される絵画展の作品など、何点かデザイン画をメディアに向けて発表した。

そこへ、専務室で作業をしていた由弦に、一本の電話がかかって来た。

「高柳!テレビ見たか!すぐに点けて見ろ!」

それは一条からで、しかも尋常ではない声。

そして、何が起きているか、ことの一部始終を知った由弦。

「オレの絵だ……やられた……彼がオレの絵に少しだけ手を加えただけの、でもまんまオレの絵だ。企画もほぼ一致している」

そう言って崩れ落ちた。

「どういうこと……!?

でも誰がこんなことを!訴えることは出来ないの!」と珉珠。

「無理だ。盗作されたと訴えた所で証拠も確証もない!兄貴が以前言ったように、この世界ではよくあることだってこと……」

「……」珉珠は言葉を失くした。

崩れ落ちる由弦に寄り添うことしかできない珉珠。

「そんな、由弦……だってあなた、どんなに時間かけて描いたか、こんなことって……酷過ぎる」

「……」放心状態の由弦。

そしてふと、今頃になって一条の「気を引き締めろよ!」と言う、あの時の彼の助言が身に沁みた。

―――― 一条の言っていたことはこのことだったのか?兄貴は何が目的なんだ!?オレの存在が邪魔なのか!?兄貴……ここまでするなんて。

頭の中は整理がつかず、落ち着こうとすればするほど、動揺して焦る一方だった。

「クリストファーの新しい世界」と題が付けられた絵画展は、大々的に宣伝され、彼の絵画展を開くことが現実のものとなり、大盛況となった。

瞬く間にそれは世界に広がり、今までの彼の描いていた画風とは異なり、彼の絵は沈黙期間に洗練された、さらに才能が開花した!とマスコミはこぞって書きた立てた。

だが、一部のマスコミが、クリストファーの絵は違和感がある!あのCGデザイン界の偉才!高柳由弦の絵に似ている!盗作か!?などと、噂し始めた。


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