恋するダイエッター
◇
「…いやいや。別にそこまですっげーデブって事でもないじゃないですか。好きな食べ物我慢するとか必要ある?」
「うるさい、放っといて。」
社食でお昼ご飯として“ところてん”をすする私の前で、前の部署で一緒に働いていた一つ後輩の佐竹颯太が美味しそうにチャーシューメン大盛りを啜り出した。
「………。」
ふうふうと湯気と格闘する姿に思わず生唾を飲んでしまう。
ジッと見ていた私の視線を感じたのか、ふわふわの黒髪の中に見えていたつむじが隠れて代わりに前髪の先から二重のまん丸な目が覗いた。
上目遣いに目線をあげる佐竹は口の片端をあげてニヤリと笑う。
「社食のチャーシューメン、侮れないっすよね!あー美味い!」
鼻をくすぐる濃いめの醤油スープの匂い。油の乗ったチャーシューが黄金色に染まるような格好でスープに浸っている。
美味しそう。
好物なんだよな、社食のチャーシューメン。
「あげますよ?真由子せーんぱい?」
佐竹がチャーシューを一枚、私の目の前に持ち上げる。
その魅惑的フォルムによだれの垂れかけた自分を慌てて戒めた。
「い、いらないし!大体なんで私と一緒に食べてるのよ…」
「どこで食べようと俺の勝手です。」
「……。」
チャーシューメンは最高に美味しいけれど、社員食堂の様相は至って普通。
小学校の教室と同じ位の幅の入り口を入ると、広々とした空間が広がる。白いテーブルに白い椅子が等間隔で並べられていて、外を見渡せる窓側、その向こうに少しだけあるテラス。
部屋の真ん中には一本の大きな柱があって、その周りにも囲う様にテーブルが置いてある。
だから柱で自分が見えない所を選んで座ったつもりだったのに。
どうして見つかるかな。
「ほら遠慮せずにどうぞ?
あー!見たいな。真由子さんが『この世の幸せここにあり!』って顔でチャーシュー頬張るの!」
そのままパクリと自分の口に入れ「あ、食っちゃった」とニッコリ笑う佐竹をムッと睨んだ。
……こいつはずっとそうだ。
私を先輩とは見ていない。
仕事を教えてあげていたのは最初だけ。要領を覚えた佐竹は部署内で一番ではないかと言う位に仕事が良く出来る様になり私のフォローも沢山してくれた。
だから、優しいし気が利くって言うのはわかっているんだけどさ…。
部署を変わっても「真由子さん、チャーシューメン食いに行くよ!」と誘われるがまま、ここに来て大盛りを二人で食べるその様は、どう考えても友達感覚。
いや、誘いにホイホイ乗っている私もどうかと思うけど。
つるりと啜ったところてんは、最初の酸味が無くなると物足りない位に無味無臭になった。
「…別にチャーシューメンなんて食べたくないもん。」
「またまた。やせ我慢は体に良くないですよ?大体、そんな事したら真由子さんの魅力が半減しちゃうじゃないですか。」
魅力とは、大口を開けて幸せそうにチャーシューを頬張る姿ってことですかい。
「…そんな魅力嫌なんですけど。」
あの田井中さんに告白するんだよ?
それなりの見た目にならないと。
再びところてんを啜り出したら、フウと佐竹が溜め息をついた。
「…別にそのままでも充分綺麗なのに。何で余計な事すっかな。」
え……?
「ごちそーさま」と立ち上がる佐竹を見上げ体を動かした途端、それ今だと言わんばかりにグルルルと盛大に鳴き出す、私のお腹。
それに、佐竹が吹き出した。
「ほらー!我慢しないで食べたら?」
「う、うるさい!」
恥ずかしさで俯いた私に佐竹が「あ、そうだ」とポケットから小さな箱を一つ取り出した。
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「…いやいや。別にそこまですっげーデブって事でもないじゃないですか。好きな食べ物我慢するとか必要ある?」
「うるさい、放っといて。」
社食でお昼ご飯として“ところてん”をすする私の前で、前の部署で一緒に働いていた一つ後輩の佐竹颯太が美味しそうにチャーシューメン大盛りを啜り出した。
「………。」
ふうふうと湯気と格闘する姿に思わず生唾を飲んでしまう。
ジッと見ていた私の視線を感じたのか、ふわふわの黒髪の中に見えていたつむじが隠れて代わりに前髪の先から二重のまん丸な目が覗いた。
上目遣いに目線をあげる佐竹は口の片端をあげてニヤリと笑う。
「社食のチャーシューメン、侮れないっすよね!あー美味い!」
鼻をくすぐる濃いめの醤油スープの匂い。油の乗ったチャーシューが黄金色に染まるような格好でスープに浸っている。
美味しそう。
好物なんだよな、社食のチャーシューメン。
「あげますよ?真由子せーんぱい?」
佐竹がチャーシューを一枚、私の目の前に持ち上げる。
その魅惑的フォルムによだれの垂れかけた自分を慌てて戒めた。
「い、いらないし!大体なんで私と一緒に食べてるのよ…」
「どこで食べようと俺の勝手です。」
「……。」
チャーシューメンは最高に美味しいけれど、社員食堂の様相は至って普通。
小学校の教室と同じ位の幅の入り口を入ると、広々とした空間が広がる。白いテーブルに白い椅子が等間隔で並べられていて、外を見渡せる窓側、その向こうに少しだけあるテラス。
部屋の真ん中には一本の大きな柱があって、その周りにも囲う様にテーブルが置いてある。
だから柱で自分が見えない所を選んで座ったつもりだったのに。
どうして見つかるかな。
「ほら遠慮せずにどうぞ?
あー!見たいな。真由子さんが『この世の幸せここにあり!』って顔でチャーシュー頬張るの!」
そのままパクリと自分の口に入れ「あ、食っちゃった」とニッコリ笑う佐竹をムッと睨んだ。
……こいつはずっとそうだ。
私を先輩とは見ていない。
仕事を教えてあげていたのは最初だけ。要領を覚えた佐竹は部署内で一番ではないかと言う位に仕事が良く出来る様になり私のフォローも沢山してくれた。
だから、優しいし気が利くって言うのはわかっているんだけどさ…。
部署を変わっても「真由子さん、チャーシューメン食いに行くよ!」と誘われるがまま、ここに来て大盛りを二人で食べるその様は、どう考えても友達感覚。
いや、誘いにホイホイ乗っている私もどうかと思うけど。
つるりと啜ったところてんは、最初の酸味が無くなると物足りない位に無味無臭になった。
「…別にチャーシューメンなんて食べたくないもん。」
「またまた。やせ我慢は体に良くないですよ?大体、そんな事したら真由子さんの魅力が半減しちゃうじゃないですか。」
魅力とは、大口を開けて幸せそうにチャーシューを頬張る姿ってことですかい。
「…そんな魅力嫌なんですけど。」
あの田井中さんに告白するんだよ?
それなりの見た目にならないと。
再びところてんを啜り出したら、フウと佐竹が溜め息をついた。
「…別にそのままでも充分綺麗なのに。何で余計な事すっかな。」
え……?
「ごちそーさま」と立ち上がる佐竹を見上げ体を動かした途端、それ今だと言わんばかりにグルルルと盛大に鳴き出す、私のお腹。
それに、佐竹が吹き出した。
「ほらー!我慢しないで食べたら?」
「う、うるさい!」
恥ずかしさで俯いた私に佐竹が「あ、そうだ」とポケットから小さな箱を一つ取り出した。
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