キンダーガーテン 二   ~優しい居場所に~
「はい、着いたよ。降りよう。」

周りを見ても、広い海と白い砂浜。

………ここ??

唯の戸惑いが、顔に出ていたのか……

「まだ、家じゃないよ!ちょっとデート。」

手を引かれて砂浜に降りると、夏の日射しに焼けた砂が

サンダルから入ってちょっと痛い。

ピョンピョン飛ぶようにして歩く唯を笑いながら進んで行く先生。

良かった。

さっきため息が聞こえたら

また怒らせちゃったのかなぁ?って内心ヒヤヒヤしてたから。

石段に腰を下ろして「おいで」って、当たり前のように手を広げる先生。


先生の抱っこ………

お家だと恥ずかしいけど…唯の居場所って気がして嬉しいなってきたけど

ここって…屋外だよ?

海水浴を楽しむ人達だって、沢山いるのに??

「恥ずかしいから…無理だよぅ。」

「今日は無理ばっかり。スカート汚れたら困るでしょう?」って

もっともなことを言われると、それ以上は反抗出来ない。

膝にちょっとだけ座ろうとしたら

先を読んだ先生に強引に横抱っこされちゃった。

「ねぇ~唯ちゃん。
オレね。本音を言えば…キスだって、その先だって…
ホントはしたい……ただの男なんだよ。
偉くもなければ、コンプレックスだっていっぱいある………。
特別なことなんて何もない、どこにでもいる平凡な人間。
尊敬してくれるのは嬉しいけど…
そろそろ"先生"のオレじゃなくて、彼氏としてのオレを見て欲しいな。
この半年で随分慣れてくれて、正直びっくりしてる。
無理させてないか心配になるくらいね。
ホントに嬉しいって思ってたから…そんな理由で呼び捨てに出来ないって
ちょっとガッカリだった。
もっと近づけてるって思ってたからね。」

「あっ!ごめん……なさい…… あの、あのね……。でもね。
先生のこと、距離を取ってるつもりはないし…今は誰よりも……
家族よりも近くに感じてて………大切なの。
今朝もね………あの……キスを嫌だって……思わなかったくらい……。
でも……でもね!
それとは別に、尊敬してるの。
これは、多分……結婚しても…変わらないと思うよ。
むしろ、強くなるかもしれない。
先生の近くに居れば居るほど……先生の優しさ凄さ……
良いところがいっぱい見えてきて…
昨日より今日。1分前より今の方が、ドンドン好きになってるの。
だから……先生はこんな理由??って思うかも知れないけど…
呼び捨ては…出来ないの。
いつか出来るようになるから…もう少し待って。
今はまだ…唯の思いがいっぱいだから……ごめんなさい…。」

「分かった……って言うか……オレこそごめん。
唯ちゃんのこととなると余裕なくなるし……恥ずかしい。
大人げないよね?
待つって言っては、自分の気持ち押し付けて……
唯ちゃんに見放されないよう……頑張るわぁ。
ところで、今日はなんて呼ぶ??
やっぱり『悠君』かなぁ~?
だったら、『先生』って呼んだら罰ゲームなんてどう?」
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