人色-hitoiro-

聞き間違えだったのかもしれない。
そのくらい、伊織ちゃんは
何事もなかったかのように
俺に向かっておはようと言ったから。

下駄箱に靴をしまいながら
淡々と伊織ちゃんは言った。

伊織「私は阿久津くんと
知り合って間もないけど
おはようって言っておはようって
言葉が返ってこなかったら傷付く。
無視されるのは誰だってヤダよ。
どんな関係だったとしても彼女はずっと
阿久津くんと一緒にいた人なんでしょ?
いくら気まずくたって無視されるのは
私よりも傷付くと思う。
だから、今しかないよ。」

奏「今しかないって?」

伊織「彼女とこれからも
おはようくらいは言い合える
関係になりたいのなら
私は彼女を追いかけるべきだと思う。」

俺は楓の元へと走った。
伊織ちゃんに言われたからじゃない。
いや、言われたからそうしたのかも
しれないけど、伊織ちゃんの
言う通り、せめて楓と昔のような
友達に戻りたかった。
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