人色-hitoiro-

信号が変わる数秒前
行き交う車が動きを止め
急ぎ足のサラリーマンが
フライングする中
女の人は阿久津くんの胸に光る
あの鍵の形のネックレスを
遠くの方へ投げ捨て横断歩道を渡った。

すれ違った彼女は泣いていた。

何秒間か立ち止まったのちに
歩き始めた私の目には
阿久津くんの姿がより鮮明に見える。

阿久津くんは安堵したような
悲しそうな苦しそうな
嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
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