我儘な想い
彼の誘いにのった私は本当にバカだったと思う。
あの日、ラッキーだと思った自分を呪いたい。
1ヶ月前の自分の楽観さにもう少しだけでも慎重さと冷静さをプラスできていれば、こうなる事くらい予想出来ていたはずなのに…
彼との"付き合い"が始まってから約1ヶ月経った私の心情は何とも言えないものだった。
彼には結局好きとは言ってもらえないまま付き合ってしまったのが私の敗因なのかもしれない…。
もちろん今でも好きと言われたりそれらしき言葉を貰えたことは1度もないまま…
今日も彼の部屋で彼が満足するまで。
私がぐちゃぐちゃのどろどろになって、「やめて」と言ってもやめてもらえない。
彼の気持ちが分からないまま。
されるがまま体を好きなように弄ばれる。
本当に私達は"付き合って"いるのだろうか?
というか私と彼の"付き合う"という認識に相違があるということなのだろうか?
ベッドに入ってどれくらい時間が経ったのかも分からないが、日付けはとっくに越えているに違いないと思う。
「廉…くん」
「……ん?どした?」
どうしたもこうしたもない。
もう休ませて…
「も……むりぃ………っ」
「あぁ、もう1回イっとこうな。」
彼は私の腰を掴むと知り尽くされた私のイイところを刺激してきた。
「…やっ、………ちがっ……………っっ!!」
体が言うことをきいてくれない感覚が怖い。
勝手に体が硬直して痙攣する。
頬に生理的な涙がつたう。
彼は私の涙を少し乱暴に拭うと、ぺろりと舐めた。
こんなの知らなかったし、知りたくなかった。
怖い、怖い、怖い。
好きな人にこんな中毒性のあることされたら、彼に捨てられた後はどう過ごせばいいのか分からなくなる。
彼は自分に好意を向けてくれる女性であれば誰とでも"こういう行為"を出来るのかもしれない。
飽きたらポイっとごみ箱行きにされるとか、恐怖でしかない。
立ち直るまで廃人になることは容易に予想出来てしまうが、そうなる覚悟はまだ出来てないからもう少し待って欲しいところだ。
「……はっ……はぁ」
息するだけでも苦しくて、頭がバカになる。
「本当にエロい体してるよな…。」
ボソリと呟きまた同じ動きを繰り返される。
「廉くん……っ、も……やだぁ!」
「お前が自分で俺を選んだんだろ?嫌なら別れる。」
「………それは…もっといや……っ」
付き合い始めたあの日。
初日から彼の部屋に誘われてほいほいついて行って以来、私は彼に誘われればいつでも彼の部屋に行くような都合の良い女になってしまった。
彼に誘われて断るなんてことは、私の体が細胞レベルで"ダメ!!絶対!!"を唱えることになるので仕方ない。
仕方ないにしても、初日から容赦なかった気がするが。
こんなことになるなんて考えてもなったのだ。
私が彼を一方的に好き過ぎて、彼に抱かれるなんておこがましいとさえ思っていたのに…。
「俺のことが好きで仕方ないんだもんな。若菜チャンは。」
私は小さく頷いて彼を見つめる。
彼はニヤリと口角を持ち上げると私の顎を掴んで無理やり開かされた。
そのまま息も呑み込まれるように深く口付けられる。
苦しくて苦しくて、少しだけでも息継ぎさせて欲しい…
力の入らない腕で抵抗するがするりと避けられ、逆に掴まれてしまう。
「……っん……んん」
また涙が溢れてきて、もう意識を飛ばしてしまいたいとさえ思う。
抵抗を諦めて私の体から完全に力が抜けると唇が離れ、彼は私の胸に顔を埋めた。
リップ音が何度も私の体に落とされる。
彼と付き合うようになってから私の胸から太ももにかけてマーキングが消えた日はない。
彼はマーキング癖があるようだ。
「……若菜…」
吐息混じりに名前を呼ばれる。
そんな声で呼ばないでほしい…。
勘違いしてしまうから。
彼も私のこと好きでいてくれるんじゃないかって…。
「…廉くん………すき…」
普段私がいくら「好き」と言っても軽くあしらわれるのに、いちゃいちゃタイムの時だけは彼のいつもはほとんど変わらない表情が柔らかく緩む。
もっともっと勘違いしたくなる。
「すき……廉くん…っ、だいすき……」
「……知ってる。」
「もっと…もっと………だいすき」
「…ふっ……"嫌"なんじゃなかったの?」
「…意地悪、されるのは…嫌っ…」
「……こんなに優しくしてやってるのに文句言うな。」
優しい!?
どこがですか!?
今日は金曜日で明日は休日だから覚悟は出来てたけど…
いつも金曜日は夜明けまで。
何度か休憩を挟んでくれてるみたいだけど、私の意識が飛んじゃってる間に休憩終了。
怖いくらいの快感で目が覚めて、彼の好きなようにされて抵抗も出来ない。
これのどこが優しいのか皆目見当もつかない。
おかげで土曜日はベッドを出るのは夕方近くになってしまうから勘弁して欲しいといつも言ってるのに…
また意識が途切れ途切れになっていく。
声にならない声が涙と共に小さく溢れて嗚咽なのか何なのか自分でも分からない。
「……若菜…そんな可愛い声で鳴くな…」
「……うっ?……う……?」
「…あぁ……本当にバカな女だなぁ…」
彼の言葉を理解出来るだけの思考回路はもう私に残ってない。
「…俺の方がお前のこと早く見つけてたのにも気付かずに追いかけてきたんだ。自業自得だろ…。」
最後にとても優しいキスをされたような気がした……
END