近づいてよ
穏やかな日曜日の昼間
久々に光が私の部屋にやって来た

最近はリビングまでしか来なかったのに…

「で?美空、話すことないか?俺に」

光は慣れたように部屋の椅子に腰掛けるとこちらをジッと見た

グレーの瞳が陽の光のせいか、潤んで揺れて見える

「何を?」

「何をって……オトコ、出来たんだろ3ヶ月目か?」

何で知ってんのよ……

「何でも知ってるよ、美空の事なら」

「……」

考えまでも読まれるのは今更始まったことじゃないけど

じゃあどうして、私が光を好きなことに気付かないわけ?
って言いたくなる


「うん、出来たよ彼氏…と言うか婚約者」

「は?婚約?何寝惚けたこと言ってんの?お子ちゃまの美空が婚約?有り得ないだろ」

光の言葉にカチンと来たけれど

……私は息をふぅっと吐いて落ち着いてから光に向き合った

「私ね彼にとっても大事にして貰ってて、彼とならゆっくりだけど家族になれるって思ったの」

仕事ぶりはどちらかといえば強引なタイプだけれど
プライベートではそこにプラスして優しくて穏やかな修太郎さんは安心感がある

光と居るときみたいにハラハラしたりしない

だから家族になるには丁度いいって思えた

そんな風に思いを巡らせていると
光が聞いた事もないくらい低い声で呟いた

「なんだそれ……好きなわけじゃねーじゃん」

「結婚と恋愛は違うと思う」

「だとしても好きでもない相手と結婚すんのか美空は」

苛々した口調で光が吐き捨てるように言った

光が苛々しているのなんて……初めて見たかもしれなくて
私は戸惑ってしまった

「あ……でも…」

「でもじゃねーよ……何やってのお前」

冷たい口調、私に向けられた見た事ないくらい冷めた視線に耐えられなくて顔を背ける

「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃない!放っておいてよ!」

すると…光がスッと立ち上がり、無言で部屋を出ていった

(………な、なんなのよ……)




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