近づいてよ
一頻りキスを味わってあとに光が優しく髪を梳きながらそっと身体を離す

二人の間に今まで感じたことが無いくらい甘い空気が流れて

どうして良いか、どこを見ていいのか分からずに俯いてしまう

すると……そんな私の前に光がペラッと1枚の紙を差し出した

「ん?」

(どこに持ってたのよ?)

ちょっと的外れな感想を他所に薄い紙を手にした光は艶やかに笑う


「早く、こっち側の名前書けよ……あとの部分、住所とかは書いといたから」

「は?」

見れば……それは婚姻届!!

しかも私の名前以外は証人のサインまで書いてあるではないか……


(お父さん?……一体どういうこと?)

「ま、待って?光……私には……」

(私には修太郎さんが……いるのに)

キスなんて呑気?に受け入れてしまったけれど、私は修太郎さんと婚約していて……

と思っていると

「何?あー笹沢?」

と、光はニヤリと笑った


「だって……お付き合いしてるし、結婚も……」


私がモゴモゴ言う間に光はどこかへ電話を始めた


「あー、うん……聞こえてた?……あぁ…くくく…
まぁまぁ仕方ないじゃん?とりあえず来いよ、待ってる」

通話を切った顔は悪ガキそのもので、先程までの艶やかな色気はどこへやら

楽しそうに鼻唄まで飛び出している

何が起きているのか、きょとんとしていると


ピンポーン


すぐに玄関のチャイム鳴り私が反応するより早く光が動いた

「きたきた」

(何が?)
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