楔~くさび~
マコトさんが紙を取り出してそこに何か書いて私に差し出した。
「?」
「オレの家の電話番号。いつでもかけてきて」
唖然としてボ~ッとしている私にマコトさんはさらに言った。
「次の台本の後半部分見た?オレとキスシーンあるよ」
え~っ!?!?
キスシーンって!?
またPTAがうるさく言うよ・・・・。しかも仕事でキスって初めてだし。
再び食事しながら考えてた。
ケンイチと別れてから、誰とも付き合ってなかった。
だからキスなんてもちろんない。
マコトさんとキス。キス、キス・・・・。
顔が赤くなった。
どうしよう。
ケンイチは私が電話で別れを告げた翌日に家にきた。
涙目で私を抱きしめた。
「もうダメなんだよな。元に戻れないんだよな」
何度もそういって、私を抱きしめた。
最後に一度だけキスをした。
コーヒーとタバコの味が混ざってるいつものケンイチのキス。
最後に言った。
「今度の恋は後悔するなよ」
ケンイチのバンドは今、売れに売れて、新曲は必ずチャート3位の中に入ってる。
スクープされたことはなかったから、私とケンイチのことを知る人間はあまりいない。
初恋は実らないほうがいいって誰かが言ってた。
心の中にしまっておこう。
キレイなままで思い出にしてしまったほうがいい。