楔~くさび~


マコトさんが紙を取り出してそこに何か書いて私に差し出した。


「?」


「オレの家の電話番号。いつでもかけてきて」


唖然としてボ~ッとしている私にマコトさんはさらに言った。


「次の台本の後半部分見た?オレとキスシーンあるよ」


え~っ!?!?



キスシーンって!?



またPTAがうるさく言うよ・・・・。しかも仕事でキスって初めてだし。



再び食事しながら考えてた。


ケンイチと別れてから、誰とも付き合ってなかった。


だからキスなんてもちろんない。


マコトさんとキス。キス、キス・・・・。


顔が赤くなった。


どうしよう。



ケンイチは私が電話で別れを告げた翌日に家にきた。


涙目で私を抱きしめた。



「もうダメなんだよな。元に戻れないんだよな」


何度もそういって、私を抱きしめた。


最後に一度だけキスをした。


コーヒーとタバコの味が混ざってるいつものケンイチのキス。



最後に言った。


「今度の恋は後悔するなよ」



ケンイチのバンドは今、売れに売れて、新曲は必ずチャート3位の中に入ってる。


スクープされたことはなかったから、私とケンイチのことを知る人間はあまりいない。


初恋は実らないほうがいいって誰かが言ってた。


心の中にしまっておこう。


キレイなままで思い出にしてしまったほうがいい。
< 12 / 40 >

この作品をシェア

pagetop