楔~くさび~
急にほっぺたがあったかくなった。
「?」
「どっちがいい?ココアとカプチーノ」
マオは、少し離れたところにある、ドリンクスタンドに行ってたんだ。
「えっと、じゃあココア」
「はい、ピカ」
マオが差し出したココアはとっても温かくて優しい味がした。
「・・・おいしい。こんなにおいしいココアを飲んだのはじめてかも」
「そ?ちょっと渋いオッサンが作ってたよ」
「え?そうなの?」
二人で笑った。
マオが改めた感じで話し始めた。
「オレさ、最初はピカと同じで読者モデルやってたんだ。けどさ、この世界って、キレイに見えて、裏側はすっげー汚いんだよな。そんな汚い世界を踏みつけながらのしあがってくことがオレにはできなかった。」
マオの言ってることはわかる。
「誰かと大事な約束してたって、守れる保証なんてどこにもない。もしかしたら、家族が事故にあったとしても、駆けつけることさえ許されない世界だろ。オレにはそんな世界無理なんだよな。」
「あたしは・・・。今、たくさんの鎖でがんじがらめにされてる。一つ一つ鍵を差し込まなくちゃ鎖は外れない。」
「見えるよ。オレには見える。ピカの体につながれてる鎖が。そして心の奥にまで入り込もうとしている鎖たちが」
「けど、あたしはこの世界じゃないともう生きていけないんだ」
「オレは、この世界で生きてる人たちとリアルな世界をつなぐ仕事をしようと思ったんだ」
「それでスタッフの仕事を?」
「そう。それで、ピカにも会えた」
マオが手を差し出して私の頬に触れた。カプチーノのカップを持っていたから、手がほんのりと暖かい。
「あったかい」
「ピカ、やっと笑ったね」
私とマオは向かい合って笑った。
「ずっと。ずっとボクのそばにいてくれますか?」
それがマオの告白の言葉でした。