楔~くさび~
マオと付き合い始めて、何かが変わった気がする。
スタイリストさんにも「キレイになったね。ひょっとして彼氏できた?」なんてからかわれたりする。
あのドラマ以来、マオと一緒に仕事をする機会はなかったけど、私がマオのいるテレビ局に行ったり、逆に、マオが私のいるテレビ局に来るときは、必ず前日に連絡をとって、偶然を装って会うことを計画した。
「ねえ。マオはプロデューサーさんとか、上の人になりたいとか思わないの?」
「前に言ったろ。オレはこの世界の汚い部分を見ちゃってるからさ、今のままのほうがいいんだよ。」
「でもさ、マオが上の人になって、この世界を変えたりってことはできないの?」
「ん~・・・。それはオレが生きてる時間だけじゃ足りないと思うよ。芸能界って何年間の歴史があるか知ってる?20年、30年じゃ変えられないと思う」
「じゃあ、マオの子供もスタッフにしちゃえ」
マオは笑ってた。
そんな私に転機がきた。
ある新人アーティストのPV出演が決まったんだ。
スタジオに入ったとき、その光景に息を飲んだ。