楔~くさび~
私は希望してるT芸大に「この人の講義を絶対に受けたい」と思う助教授の先生がいた。
だから、この芸大を第一希望に決めたといってもいい。
2次試験の日。マオの言葉を思い出して、大学に向かった。
お守りをくれた日からマオに会っていなかった。
会えないっていう表現のほうが近いかも。
マオがスタッフをしてるドラマがものすごく視聴率がよくて、マオはほとんど家に帰らず撮影につきっきりだった。
それでもポケベルには毎日愛の言葉が届く。
ポケベルをバッグに入れて試験を受けた。
筆記試験のときに、教室に入ってきたのは、何と私が「講義を受けたい」と思っている助教授だった。その助教授が試験の監督だと知ったとき、私は何か運命みたいなものを感じた。
不思議だけど「私、合格する」
そんな気持ちが全身を包んだ。
ペーパーテストは不思議なくらいに、センターのときよりも簡単に感じてスラスラと解けた。
そして実技。
ピアノに向かい、ゆっくりと深呼吸。
私は15年間習ってきたの。ずっと、この鍵盤を弾いてきたの。
まるでマオに触れるみたいに、優しく、強く、演奏した。ミスはなかった。
試験終了。
私、合格できるかな???