楔~くさび~
1週間後。
毎日ケンイチからは電話があった。それは付き合い始めてから一日も欠かしたことはなかった。
あの事があってからも。
でも、当然というか、あの事に二人とも触れることはなくて。
一度、ケンイチのバンドのマネージャーさんから電話があって、あの男が解雇されたと聞いた。
今日、私はある決意をしていた。
いつもどおり、ケンイチの電話に出た。
「もしもし?」
「ヒカリ?オレ。」
「うん」
「仕事終わって、今帰ってきたとこ」
「お疲れ様」
「今度の休み、どっか行こうか?」
「休み?休み取れたの?新曲、テレビで見たけど7位だったよね」
「うん。イベントが続くんだけど、その間に一日だけ休みが入るんだ」
「そっか。ケンイチ、あのさ・・・」
「ん?」
ゆっくり深呼吸した。
「私、大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「・・・・。別れたい」
長い沈黙が続いた。
「何で?あんな事があったから?」
「私は・・・私はもう私じゃない。」
「そんなことないよ。未遂で終わったわけだし」
「ケンイチ、笑わなくなった」
「・・そうだっけ?忙しいからじゃ・・」
私はその言葉をさえぎった。
「私といるとケンイチはダメになる」
「何言ってんだよ、オレはヒカリが必要だよ」
「その言葉が本当だとしても、いつかケンイチは後悔する」
「後悔?」
「いつかじゃないかもしれない。私と二人きりでいたら、ケンイチはいつもあの事を思い出すと思う」
「オレは大人だからそんなこと思わない」
「私が子供だって言ってるの?」
「そうじゃない。オレのほうが年上だからって意味だよ」
「ごめん。私と別れて。もう電話もしないで」
私は電話を切った。
私の初恋が終わった。
それは中学2年の秋。