〜starting over〜

「……さぁ、どうだろ。連絡きてないけど」

島田君がスマホを取り出し、確認してくれてるようだ。

「おかしなもんだよね。私、一応彼女なのに、彼氏の事全然解らないんだもん」

頑張って笑ってみるけど、目の端からちょっと力が抜けてく。
実は、校門で張ってた時、加奈子先輩も居なかった事が心に引っかかっていた。
もしかしたら、連絡の取れなかった昨夜から今朝まで一緒なんじゃないかって。
待ってる間、不安で不安で仕方なかった。

「一応って言うな。真輝はが認めてるのは杏だけだ。それに本当に具合悪くて休んでるだけかもしれない」
「……そう、なら……いいんだけど」

確かに、いろんな予測は立てられる。
連絡が出来ないくらい、具合が悪い事だってあるだろうし。
ただの寝坊かもしれない。
登校中に事故に巻き込まれてたり、ただの気まぐれでサボってるだけかもしれない。
女の子と……一緒かもしれない。
一抹の期待と、大きな不安。
ただ、連絡をするって言われてこなかったのは、今回が初めてで。
胸が苦しくて、張り裂けそうで、もう大声を出して叫べたら、どんなにいいか。
私は、後どれだけ真輝に振り回され、心を痛め、その度に気合を入れ続けなければならないんだろう。

「私、いったい何と戦ってるんだろう……」
「え?」
「あっ。ううん、なんでもない」

泣き出したい思いに精一杯蓋をして、目尻に力を籠める。
うん、今度は大丈夫。
それなのに、

「杏ちゃーん、今日旦那は～?」

私を冷やかしたいグループは心無い言葉を投げてくる。

「あれ～?無視～?」

その声に向かって行こうとする島田君の腕をおさえて、小さく首を振った。
喉に空気の玉が突っかかったような息苦しさと、妙な脱力感。
眉間に皺をためていた島田君は、私を見て目尻を下げて奥歯を噛みしめる。
その気持ちだけが、私の頑なになる心を癒してくれる。
でも。

あぁ。
なんか……。
もう、疲れた。

ふぅ、と息を吐きだし、耳を塞ぐように窓の外を見上げた。
今日も、空は青く青く澄んでいる。
この空に浮かぶ雲のようになれたら、どれだけいいだろう。