〜starting over〜
「杏ちゃ~ん、ごめんね~。怒ってる~?昨日は急用が出来ちゃって」
「へー」
既読もつかないほどの急用って何よっ。
公然の場で、今度どんな言い訳をするつもり?
内心どきどきしながら覚悟を決めると、島田君が自分の横を横切り私に近づこうとする真輝の腕をとった。
「……っ!真輝ちょっとっ」
そんな制止を無視して、着席する私を後ろから抱きしめた。
その瞬間―――。
ずっと欲しかった温かい体温とともにふわっと香る、とても慣れ親しんだ匂い。
思わず目を瞠り、息を飲んだ。
その匂いは、私を混乱の渦へ引きずり込んだ。
大好きな匂いの一つなのに、否定したい気持ちもあるのに、十分すぎる証拠でもあった。
嘘でしょ……だってこれっ。
真輝の腕を振りきって、一気に立ち上がると眩暈がした。
視界が揺れて卒倒しそうな中、必死に足に力を入れて踏ん張る。
胸が苦しい。
心臓が、飛び出しそうな程高鳴る。
「ど……どういう、事?」
やっとの思いで振り絞った声は、やっぱり震えていた。
「え?」
「おまえら……最悪だ」
まだ状況が飲み込めてないのか、ただとぼけているだけなのか、戸惑った様子の真輝に反して、私と同じ答えを導き出した島田君は頭を抱えて天井を仰ぐ。
玲奈ははっとしたように目を瞠って口が震せた。
「……どういう事……。なんで……どうしてっ」
「どうって……」
まだ気づかない真輝に、
「どうして、真輝から玲奈の薔薇の匂いがするのかって聞いてるのよっ」
やっと意味を理解した真輝は、
「ごめ~ん、杏ちゃん。深い意味はなくて……」
「ごめん、杏っ。……ごめん!」
いつもの軽いノリの真輝と、今にも泣き出しそうに震える玲奈の言葉がハモッた。
しかも、2人とも誤魔化すでもなく、すんなり肯定してくれる。
ただ一緒に遊んだとかじゃなくて、関係を持ったって認めるんだね……。
ああ、頭ん中がぐちゃぐちゃだ。
深い意味がない?
意味がなければ許されるの?
彼女って公言している親友に手を出すの?
玲奈は親友の彼氏とシたの?
毎日私がどれだけ苦しんでるか知ってるくせにっ!
ああ、もう2人が解らない。