〜starting over〜
大学生(仮)が予想より低い声音を響かせた。
でも凄く心地良く響く。
「はい。(えーっと)こんにちは?」
首を傾げると、顔を顰められた。
え、何よ、感じ悪い。
「杏、あんたのおじさんよ。お父さんのオトウトの湊君」
耳を疑った。
「は?初耳なんですけど!?」
この15年、お父さんに兄弟がいるなんて聞いたことがなかった。
それ以前に全然似ていない。
何も知らなければ、お父さんとこの大学生(仮)を親子って言っても通じる。
「てか、年離れすぎじゃない?」
「あぁ、おじいちゃん再婚した時の連れ子さんなのよ。ほら、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、年の差婚じゃない?」
それは知ってるけど……。
昔、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのそれを理解した年齢の頃には『お祖父ちゃんすっごーい!』程度には思ってたけど。
まさかお父さんに義弟がいたとは。
そして、今、まさかの初対面。
なんで今まで知らされなかったんだろう。
今日はいっぱい初めて知る事がありすぎて、頭がショートしそうだ。
「とりあえず、急いでくれない?」
「え?」
「そうね。杏、早く。荷物は纏めてあるから。必要な物があったら湊君に言うのよ?」
「はぁ?え、何?」
お母さんの手には、私が中学の時に修学旅行で使用した大きめのバッグが。
どういう事?
疑問を投げかける暇もなく、急かされるまま外へと追いやられる。
家の前に、今度は白いミニバンが停まっていた。
おじさん……湊さんが運転席に座ってスタンバイする中、後部座席に私の荷物を置くと「早く」と助手席に押し込まれる。
今日のお母さんはかなり強引だ。
「待って。意味が解らないんだけど」
何もかもが唐突すぎて、ちゃんと説明してよ。
お母さんを振り返った時、ギュっと抱きしめられた。
「杏、愛してるわ。お父さんもお母さんも杏の事本当に大事に思ってるのよ。だけど許して。貴女の安全の為なの」
痛いくらいの力強い抱擁に返す言葉もなく、黙って悲しそうなお母さんの表情を見つめ返す。
それって……私はここに居ちゃいけないって事なの?
やんわり促される別離と、伝えられる親の愛情。