〜starting over〜



お金を精算機にかけ、金銭授受表に1万円から1円まで枚数を精算表に記入する。

「確認お願いします」

声をかけると、ナイトマネージャーがもう1度お金を精算機にかけて、金券の枚数など間違いがないかチェックする。
問題なければ今日の仕事は完了。

「はい、OK」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」

頭を下げて退勤カードを切る。
更衣室で、ユニホームのお店のエプロンとジャンバーを脱いでロッカーにしまうと、コートを着込むと外に出た。
真っ黒な空に白い息を吹きかける。
今は12月。
あれから半年がたった。
田舎と違って、ここの夜は日中のように明るい。
地元は暗がりの道が多くて怖かったけど、足元もその先もずっとしっかり照らされていてる。
悴む手でコートのポケットから湊さんに買ってもらったスマホを取り出す。
何かあった時、連絡がとれないと不便だからって渡されたけど、湊さんから連絡がきた事はない。
音楽アプリを起動して、イヤホンをして曲を選択。
家路を急ぐ。
今、私は湊さんのマンションでお世話になりながら、近くのスーパーでレジのバイトをしている。
湊さんのところに来た時、これからどうするか話し合った。
戻るあてのない地元の高校は、退学した。
転校の話もあったけど、義務教育が終わり親が負債を抱える中で、自分だけのうのうと学生生活を送る気にはなれなかった。
同級生や他の生徒達にされた事を思うと、状況が違うにしても、学校に行く気になんてなれなかったしね。
湊さんは基本「自由にしていい」と私に言った。
ただ、危険な物や人、場所に近づかなければ、好きに過ごして良いと。
だけど、働かざるもの食うべからず。
今は、近所でバイトして、必要最小限のお金を手元に残して、湊さんに頼んで親元に送金してもらっている。
「おまえの親はこんな事望んでないぞ」て言われたけど、何もせずすべて両親に全てを背負わせたまま、1人安全圏で安穏とした日々を過ごすなんて出来なかった。

両親とは、あれ以来連絡は取っていない。
急に別れてしまったから、どう接したらいいのか解らないし。
自己破産はしていないし、会社も畳むことなく、きちんと地道に返済をして頑張っているそうだ。
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