〜starting over〜
荒立つ心を玲奈の笑顔と、肩をポンポン叩く島田君の励ましで少しおさまった。
でも本当。
真輝の事、どうしたらいいんだろう。
予冷がなって、それぞれ席につくと、間もなくして先生が教室に入ってきた。
「待って待って待ってー!」
その後ろから、慌てた様子で滑り込んできたのは、クラスメイトの熊田奈々ちゃん。
「セーフ!」
「馬鹿。もっと早く来んかっ」
「さーせん。そうだ、先生に報告あるんだ。後で職員室に行くね」
全く反省していない謝罪をするこの光景も、この教室ではもう1つの名物。
詳しくは知らないけど、聞いた話だと奈々ちゃんは週末になると東京のダンススクールに通ったり、なんかの大会にでたりと、精力的にダンスに取り組んでるとか。
最近では、どっかの事務所に入ったとか聞くし。
本人も、将来はダンサー!と言ってるのを小耳にはさんだ事がある。
夢に向って突き進む人のバイタリティは凄いな。
昼休みにダンスを披露してるのを見た事あるけど、その迫力に圧倒された。
それに比べて私は……。
特別これといったスキルもなく、ただ毎日真輝に振り回される日々。
夢に見た花のJK生活が、こんな鬱々としているなんて想定外だ。
窓際の席からのぞく空は、曇天。
この空のように、私の心には暗雲しかなかった。
放課後になって、玲奈と一緒にカラオケに向かう途中。
「杏先輩!玲奈先輩!」
背後から大きな声がした。
振り返ると、中学の後輩、鈴木美香が大きく手を振って此方へ走ってきた。
中学の時、私と玲奈も吹奏楽部に所属していた。
美香は2コ下で、いつも高い位置でハーフアップされた髪に白や赤のリボンをつけている。
まるで毛長のマルチーズのようで可愛い。
いつもニコニコ笑顔で、足元をパタパタ歩く人懐っこい犬のようだ。
玲奈と同じパートのトロンボーンだった。
パートリーダーだった玲奈が、パートの音がまとまりがなくて顧問の先生に怒られたときなんか、一緒に反省する私達を美香の笑顔が癒してくれた。
先輩後輩だけど、3人仲が良くて、部活帰りはよく3人でお喋りしながら帰った。
部活のない日でも一緒に練習したり、ショッピングに出掛けたり、こうしてカラオケに行ったり。
本当に仲が良いんだ。