〜starting over〜
ずっと考えないようにしてた。
奈々ちゃんは、真輝とのやりとりに明日が見えなくなっていた私に、一石を投じた。
漫画や本で、恋は最後に必ずハッピーエンドになると思い込んでいた私に、終わりにするという選択肢があると言う事を教えてくれた。
結局、最後は事が大きくなるまで、大丈夫だと頷かせる日々だったけど……。
そんな事もあって、奈々ちゃんには是非とも頑張ってもらいたいと密かに応援してたんだよね。
まだ始まったばかりのグループ。
その顔と言える1番人気が抜けると、どうなるのかちょっと怖い気がした。

「頑張ってほしいな……」

安易な願いだけど、本心だった。
時計を見ると、もう出勤の時間。
朝は忙しいのに、回顧に浸ってる場合じゃなかった。
戸締りの確認をして、慌ただしく家を出た。
今日は開店から夕方までシフトが入っている。
常連客とはすっかり打ち解けて、近しい挨拶や砕けた話もグイグイできちゃう。
常連さんがよく口にするのは、「毎日の事だと料理もパターン化しちゃうのよね」とマンネリ感に頭を悩ませてるおば様も多い。
私は、自営店を手伝ってた所為もあってか、食材の調理方法など相談に乗っていたら、仲良くなってしまった。
定番の料理でも、隠し味や少しアレンジを加えたりと、色々提案している。

「杏ちゃん、お父さんが既に亡くなってて、病気のお母さん支える為に働いてるんですって?」
「あら、出稼ぎにきてるんじゃなくて?」
「あ、あの……誰がそんな事?」

常連のおば様2人に、私は顔を顰めた。
2人の視線の先は店長。
おまえかっ!

「ちょっと店長!私のプライベート、適当に吹聴しないで下さいよっ。こっちは風評被害もいいところです!」

出稼ぎって……う~ん、ちょっと合ってる?けど。

「ええっ、な、何?何の事?」
「もう~、可愛い従業員大切にしてくださいよっ」

面接の時、両親を支える為に働きたいと言ったのは私だけど、勝手に私のストーリーを作らないでいただきたい。
深く追求せず、快く雇ってもらえたと思っていたけど、ただの人手不足だっただけらしい。
有難かったけど、この店長、いい加減すぎる。
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