〜starting over〜
懐かしい顔に、凍り付いた心に灯がともる。
「でも、本当。まさかあの杏が湊のプロデュースで歌ってるとはね。世の中。いつ何が起こるか解らないものね」
眩しそうに目を細めて、まじまじと言う。
感極まっていると、足元で、もぞもぞ動く気配がした。
みると、小さな女の子がくりっくりのおめめを輝かせて私を見入っている。
さゆ姉が、屈んで私達の間に引き入れる。
「娘の雫。もうすぐ4歳になるの。杏のファンなのよ~」
悪戯っぽく笑って紹介された雫ちゃんは、私のトレードマークと同じように柔らかそうな髪を高い位置でポニーテールしている。
目が合うと急にもじもじし始めて、とても可愛い。
「はじめまして、雫ちゃん。今日は来てくれてありがとう。会えてとっても嬉しい」
言うと、はっとしたように自分のリュックから丸く巻かれた紙を取り出して、
「あんちゃんに、プレゼントをもってきました!」
「わ~ありがとう。見てもいい?」
大きく頷く仕草が可愛くて、自然と笑みが零れる。
赤いリボンを解いて紙を広げると、Museがステージで踊ってる姿だった。
色鉛筆を実にカラフルに使って、ダイナミックに描かれている。
真ん中のポニーテールでデカデカと描かれているのが私で、他のメンバーは少し小さめ(笑)。
「嬉しい!こんなに好きって心がこもってるプレゼント初めてだわ。大切にするね!」
今度は私が雫ちゃんをギュッと抱きしめた。
「あんちゃんだいすきです。これからもがんばってください!」」
これまた感極まったのか、雫ちゃんは泣きながら私にしがみ付いてきた。
それを見たさゆ姉が「二人とも可愛い!!」と、抱き合う私達ごと抱きしめて、記念写真を撮った。
ある程度、メンバーも交えて皆で食事をした後、テーブル隅でさゆ姉と今までの事を話した。
失恋したその日に両親の負債を知り、そのまま湊さんに預けられ、高校は転校ではなく中退した事。
ニート疑惑の湊さんを訝しく思いつつも、バイトに明け暮れる日々。