〜starting over〜

ちやほやされたり、女の子に囲まれてキャーキャー言われて、その中の誰かと身体の関係を持っているかと思うと、嫉妬心で焼き焦げてしまいそうだった。
そんな感情を15の私では抱えきれず、苦しいのに強がってしまっていた。
もし、その気持ちを素直に伝えられていたら……。
私達の未来は何か変わっていただろうか。

なんて。

過去は過去。
過ぎてしまった日を思い馳せるより、今を、これからを考えなくっちゃ。
逆に、私の中で苦しい日々があったからこそ『あの時に比べればこれくらい……』と歯を食いしばる事ができたのだから、感謝してもいいのかもしれない。

まぁ、そんな思いを無視して、私と真輝の過去の交際が、前メンバー矢代瑠璃の脱退で人気急下降になっていたMuseの知名度を一気に押し上げたのだから、皮肉なものだ。
でも、丁度シングルをリリースした直後だったので、良い宣伝にもなった。
一時、数多の真輝ファンを敵にまわして誹謗中傷を受けたり、ネットで同じ中・高校だった人達に当時の私達のやり取りを呟かれたりしたけど、いつの間にか有耶無耶になって、今は水面下でささやかれているようだ。
人の噂も七十五日ってやつかな。
世の中には不確かな情報が溢れかえっているし、日々提供される情報に、人の気もまた移ろいやすい。
だけど、世間からこんなにもバッシングされるとは夢にも思ってなくて。
人形ではないから、人からの悪意に心を痛めるし、決して傷つかない訳でもない。
そんな私を支えてくれたのは、プロデューサーである湊さん。
ただ一言『俺がおまえを支える』と言ってくれて、それがどんなに心強かったか。
私には悪意を向ける人ばかりではなく、味方だってちゃんといるんだ。

芸能界は、入れ替わりも激しい弱肉強食の世界。
縦社会で、目上への礼儀も重んじられる。
一瞬話題に上がっても、すぐ消える事も多々ある。
慮外だとはいえ、新鋭として扱われる真輝との忌々しい過去は、私という人間を知らない人達から、事実も嘘も混在して呟かれる。
仮令、悪評だとしても注目をされる事は、低迷の兆しを孕んでいたMuseの名前を再び世に響かせる手段となったのは言うまでもない。
そして、その後も音楽界に消える事なく名を留めるには、それだけの人気・実力が必要なんだけど。
宣伝も兼ねて出たバラエティ&歌番組で、奈々のキャラクターがお茶の間にウケて、奈々は他のバラエティ番組から引っ張りだこになった。
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