〜starting over〜
「現に、ダンスは下手だったけど、歌う杏は飛びぬけてたんだよ。でも、それだけじゃダメで、全体のバランスをとるのと、リードボーカルのマイを生かす為にサヤカと優奈が選ばれた。それで、Museの声に瑠璃がいた時よりも深みと曲調の幅も広がった」

オーディションは、瑞樹にサプライズに受けさせられて「なんて事をしてくれたんだ」と憤慨したい気持ちでいっぱいだった。
だけど、

「私は、確実に落ちるだろうと思ってた。会場には沢山の可愛い女の子や、それこそ聞きほれるほど歌の上手い子がいて。真剣に夢を追う人達の中で、温度差のある自分が居心地が悪かった。でも、すぐに1つの経験として楽しもうと切り替える事にしたの。でもね、そのうち、1つ1つ課題をこなす事で、否定してきた過去の自分を越えられるような気がしてきて……。きっと、周りの雰囲気に感化されちゃったのね。最後は唄うのが楽しくなってしまったわ」

ただ一生懸命、自分がどこまで出来るのかを試したかった。
きっと、私を必要としてくれる場所があるんじゃないかって、期待してしまったのかもしれない。

「デビューメンバーに選ばれた時、辞退する事もできたと思う。でも、私は、誰かに必要とされたかった。私じゃなきゃダメって、言われたかった。私と言う人間を認識されたかった。居場所が……欲しかった。だから、私にはMuse(ここ)しかないの」

奈々には、この意味が解るだろう。
真輝の浮気は、私の何が悪いのかと自己否定する毎日。
周囲に嗤われる日々。
真輝と玲奈に裏切られ、両親には安全のためと突き放された。
私にはMuse(ここ)しかない。
バイトよりお金も稼げるしね(笑)。

「私もだー。Museが私の居場所!Muse(ここ)には、誰1人不要な人間なんていない。7人で1つ。明日の凱旋ライブ、楽しみだね!」

見返してやろうと、奈々と私。
どちらからともなく、2人で瞳をあわせると、笑いあった。

それから各自わかれて校内を探索する事になった。
スタッフも二手にわかれ、其々に追随する。
さて。
思い出の少ない校内を、どう散策しよう。
そうフラフラ廊下を歩いていると、吹奏楽の演奏が聞こえてきた。
曲に引き寄せられるように、辿り着いたのは体育館。
出入口から顔を出し中を窺うと、顧問の先生の怒声が響いていた。

「トロンボーン、高さがあってない!石田っ、音がズレてる。チューニングは基本だろう!佐々木から後ろ!カーブ列を乱すな!揃えろー」
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