〜starting over〜

顧問が、ステージ上から次々と檄を飛ばす。

「ポイント、ピシッと決めろ!いつまでもチンタラ練習するつもりか!体育館の使用時間は決まってるんだぞ!」

真夏の体育館。
生徒達が、汗を流しながら必死にマーチングの練習をしている。

「青春だわぁ~」

小声でつぶやき、懐かしさに足を踏み入れてしまうと、丁度演奏が終わったところだった。
う~ん、残念。
生徒達は首に巻いたタオルで流れる汗を拭く。

「全員集合!」

ステージ下に生徒達が駆け寄る。

「よしっ。後ろを見ろ、ご褒美だ」

顧問の声に一斉にこちにを振り返り、私達一行に視線が注視された。

「え!?」
「えぇっ!?」
「うそっ!」

戸惑いが彼方此方から上がる。
なんか、気まずい……。
えーっと。

「お、お邪魔してます」

なんとも情けない挨拶をしてしまった。
その瞬間。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

体育館に盛大な歓声が響いた。
一気に人の波が私に押し寄せてきた。
スタッフが慌てて制止を促すように前に出る。
その中から、懐かしい声がした。

「先輩!」

1人の女子生徒が前に出た。

「杏先輩っ」

もう1度叫んで、美香が私に飛びついてきた。
スタッフが引きはがそうと近寄るのを目で制して、美香の背中に手を回した。

「美香……」
「先輩、会いたかった。何も言わず突然いなくなって、心配してたんですよ?」
「ごめん……。ごめんね」
「先輩っ」

ぎゅうううっと締め付けられて、うっ。

「く……苦しいんだけど」
「もう、感動の再会が台無しなんですけど~」

懐かしいやり取りに、笑いがこみ上げた。

「高校、ここにしたんだね」
「はい。此処に居たら、杏先輩に会える気がして……」
「美香……」
「本当は私の頭で入れるとこが、ギリギリここだっただけですけど~」

私の感動返せ。
ぎゅうううっと締め付け返してやったら、ギブアップの手が激しく私の背中を叩いた。
相変わらず可愛い後輩である。

「今日はどうしたんですか~?ライブ明日ですよね?あ、因みに、私明日のチケット取りましたからね。真ん中よりも少し前の席なんです、頑張ったでしょ?褒めてくれてもいいですよ」
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