〜starting over〜
「片平……在籍中は…、その、力になってやれなくて、すまなかった」
「え?」
「学校生活だけでなく、少しの間だったとはいえ、部内の居心地も悪いものだったと思う。退学してから、ずっと気になってたんだ。今は、お前たちの活躍が非常に嬉しいよ」
目尻の皺を垂らす顧問に、私は首を振って微笑み返した。
「先生が気を病むことはありません。私の……自業自得だったです」
だって、私が真輝を手放せなかった。
自分で自分の首を絞めた結果だった。
「寧ろ、部内の雰囲気を悪くしてしまって、申し訳ないと思っていました。ありがとうございました」
顧問の目に光る物が見えた気がした。
それに気づかないふりをして、奈々とカメラ前でスタンバイする。
顧問のタクトで前奏が始まると、いつもふざけた態度の奈々の顔つきが変わる。
お互い瞳で「いくぞ」と合図してダンス開始。
音楽・ダンスに対して、奈々はとても真摯だ。
自分を解放出来る場所、そう奈々は言っていた。
私も、音楽がそういう場所になればいいな。
私達の歌声に、部活中であろう学生達が体育館に集まってきた。
手を高く振って、波のように煽ってくれる。
このこみあげてくる感情をなんて名付ければいいんだろう。
高揚感、充実感、幸福感……色々あると思うけど、私、今満たされてる―――。
横目で奈々を見れば、奈々も此方を見ていて、お互いに微笑む。
『楽しいね』
体育館内は夏の暑さと人の熱気で飽和状態。
唄い終わった私達は、簡単な挨拶をしてスタッフに護られながら、足早にロケバスに向かう。
夏休み中とはいえ、予想以上に人が集まっていた。
制服を着た学生の他に、私服の人も多数の観客が居る。
狭い地域だから、私達の行動伝達が早いのかもしれない。
沢山の声援。
私と奈々の名前が彼方此方から投げかけられる。
不思議なものだわ。
在学中は皮肉めいた言葉を散々浴びせられていたのに、今は歓喜の声援を送られている。
その多くの声の中から、私の耳に1人の声がしっかり届いた。
振り返って、その主を探すとすぐに見つけた。
「島田君……」
「杏、待ってっ。話したい事があるんだ!」
ダメよ。
こんな人の中ではそっちに行けないわ。
「杏っ!」
ごめん。
会えて嬉しかった。
通じたかは解らないけど、視線で謝る。
スタッフに押されてバスのステップに足をかけると、また聞こえた声に身体の芯が震えた。
はっきりと耳を打つ声質。
「杏っ」
私が決して会いたくない人物———真輝だ。
胸に恐怖にも似た動揺が広がる。
どうして此処にっ。