〜starting over〜
「解ってるのよ。本来なら親元で暮らせてたはずの子供が、私達の所為でここに居られなくなってしまった事。だけど……だけど……」
義姉が声を詰まらせる。
年が離れた義兄。
俺が音楽の道に進む時、初めは殆ど収入がなく食事や生活に困窮していたのを支えてくれた恩人だ。
だから、杏を引き取ってほしいと連絡があった時。
15歳の女の子という事で戸惑うところはあったが、恩人の為ならばと二つ返事で引き受けた。
義兄を恩人と言いながら、連絡も殆どせず恩返しもしていない後ろめたさが先に立った。
突然の義姉の電話で、杏を予定より早く迎える事になった。
相手は思春期全開の未知の女子高生。
車中、何も説明をされてない上に失恋したと泣かれて、散々だった。
どう接していいのか、解らず居ると、隣から寝息が聞こえてきて安堵した。
眠る杏をベッドへ運び、急いで仕事へ戻る。
今はMuseのレコーディングで大忙しだ。
夜中に音を収録し編集すると、朝早くからMuseメンバーが次々とスタジオ入りする。
奈々が挨拶を終えると、すぐ、
「湊さんいつもと違う匂いすんねー。夜中に何があったんだか……悪い大人だね~」
奈々が含みを持たせた言い方で悪い笑みを浮かべると、瑠璃はあからさまに険しい視線を向けてきた。
ああマジ。
思春期全開、めんどくせー。
目覚めた杏は、俺を余所に、瞳に覚悟を抱いていた。
思春期との二人暮らしに暗雲が立ち込めるかと感じていたが、殊の外と心地良く。
そこに居るのが当然とまで感じるようになった。
家事全般を担ってくれるし、あの時の料理を再現してくれて、懐かしさで胸にクルものがあった。
胃袋を掴まれた、とでも言うべきなのか。
子供相手におかしなものだ。