イジメ返し3
「売っちゃったの……。お金……返さなくちゃいけないから……」

スマホを売った?どうして?なんでそんなことした!

「なんでだよ!誰に金を返すんだよ!?」

そう叫んだとき、ハッとした。

母は知っているんだ。夢原製菓の専務の息子の金を俺が巻き上げていたことを。

いや、それだけじゃない。複数の人間から俺がカツアゲしていたことを母は知った。

そして、その金を返すために母はスマホを売った。

「翔平の間違いを正してあげられるのは……お母さんしか……いないでしょ……?」

母の呼吸が荒くなる。

顔から血の気が引いていき、唇が青くなる。

目がうつろになってきた。一分一秒を争う状況だ。

自分の心臓の音に急かされるように叫ぶ。

「しゃべんな!今、救急車呼んでくるから待ってろ!」

「翔平……どんな理由があろうと人を傷付けたら絶対にダメなのよ」

「分かった、分かったから!」

「約束……ね」

必死に叫ぶと、母が手を伸ばしてきた。

震える右手は自分のものよりも小さく、そしてガサガサだった。

必死になって一人で働き、俺を育ててくれたのに。

それなのに俺は……

この手を俺は今日、振り払ってしまった。

母はいつだって手を伸ばしてくれていたのに。

その手を俺は掴もうとしなかった。

「母さん……」

ごめんな、と言いながら手を握ろうとしたとき、寸前のところで母は力尽きた。

力なくだらりと床に落ちたその手を呆然と見つめる。

俺は最後まで母さんの手を握り返せないのか……?

鼻の下に手を持っていき呼吸を確認する。

大丈夫だ。気を失っているだけでまだ息はある。

「母さん、待ってろ!!」

俺は弾かれたように立ち上がると、玄関を飛び出してアパートの階段を駆け下りた。

手を握り返すのは、救急車を呼んだ後だ。

迷うことなく一階に住む高齢の夫婦が住む家の玄関扉を力いっぱい叩いた。
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