イジメ返し3
その日から、母は事あるごとにあたしに手をあげるようになった。

あたしが何か悪いことをしたときでなくとも、自分の気分が悪い時にはあたしを罵り、手を上げる。

最初は抵抗していたけれど、それが無駄な努力であると気付いた。

母は絶対に非を認めない。

あの時もそうだ。

幼稚園の帰り道、母とスーパーに買い物に行った時、お菓子コーナーで母がこういった。

『お菓子もうなかったね。その4連のやつの一番下だけもらっちゃいな。4つで1つの値段なんだから1つもらっても万引きにはならないでしょ。もらって幼稚園バッグに入れときな』

小分けされ4つが1列に繋がったお菓子。

母はその一番下のお菓子を取れとあたしに命令した。

幼いながらにそれが悪いことであるという感覚は持っていたために躊躇すると、母は『チッ』と舌打ちをしてあたしを睨んだ。

母の機嫌を損ねたらまた叩かれてしまう。

震える手でお菓子に手をかけ、点線の部分に沿って一番下のお菓子だけを切り取りバッグに押し込むと、母は満足そうな表情を浮かべた。

スーパーを出るまで誰かに気付かれたらどうしようかと手に汗握っていたものの、母は冷静だった。

けれど、スーパーを出て駐車場に出て車に手をかけたタイミングで

『お客さん!』

と店員がこちらに駆け寄ってきた。

心臓がバクバクと震えだし、体が硬直する。

バレたのかもしれない。必死になって母の手を握ると、母がうんざりしたように言った。

『さっきのがバレたのかもね。アンタがお腹が空いてとったことにして。子供なら何してもつかまらないんだから』

その言葉に絶句した。

母はあたしを守る気など一切ない。それどころか自分が指示してやらせたことをあたしに押しつけ自分だけが逃れようとしている。

店員が『困りますよ』といった瞬間、恐怖で体中がガタガタと震えた。
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