敏腕メイドと秘密の契約
"弥生"の格好をした"三浦さん"がタクシーで帰宅した。


金曜日は、両親と食事をして2階に案内してから、すぐに就寝。

土日は第1秘書の田之上と九州に出張。

日曜の夜は23時に帰宅。

同じ家に同居するチャンスを得たのに2日も無駄にしてしまった。

"ルームメイトの藍"は既に眠っていたらしく、リビングのテーブルには 『おかえりなさい』の文字が残されていた。

"萌え死ぬ~!"

あの"エーアイ三浦"が天音と同居し『おはよう』『おかえりなさい』と挨拶を交わしてくれるなんて。

25歳になった天音は、勉強や技能で藍に叶うはずはないと、とっくに理解していた。

今日のレセプションパーティで、トラブルに対処する彼女の姿を見ても"叶いっこない"とすぐに理解した。

彼女は天才だ。

天音がかつて立ち向かおうとしていたのは、赤子がコンピューターに闘いを挑むようなものだったのだ。

迷いと妬みを棄てて、残った感情は純粋な恋心のみ。

愛しい三浦藍が、自分と会社のために誠心誠意尽くしてくれる様子は、天音の砕かれていた自尊心を修復するのに十分な出来事だった。

そして、今、

"あの三浦藍が俺の前で素のままの姿をさらけ出している‼"

藍は疲れ果ててしまったのか、2階の玄関をくぐると同時に、リビングのソファに突っ伏した。

「ごめん、おなかがすいちゃって」

とお腹まで鳴らして照れ笑いを見せる姿は、可愛さを通り越して愛しさまで感じた。

ようやく欲しいものに近づいた天音は、破顔して、より藍に接近を試みた。

藍の口から憎まれ口が聞こえる。

"昔の自分とは違う"

暗にそう伝えてくる藍はアメリカでの生活を口にした。

ルームメイトとはいえ、女性が2人一緒だったとはいえ、ジョンという男と同居をしていたと藍は言った。

メラメラと嫉妬の炎が立ち上がるのがわかったが、アメリカナイズされた藍の経験値を利用しない手はないと天音は思った。

藍の隣に腰掛け、さりげなく肩に腕を回して耳元で囁く。

慣れた様子ではないが、特別にいやがる様子もない。

アメリカ人の習慣を逆手にとって、藍を煽り頬にキスをした。

「な,,,倉本くんは日本人でしょ!」

思った以上に照れ臭いが、それ以上に嬉しさが大きい。

もうすぐ頼んでおいたピザがくる。
藍のために溜めておいたバスタブのお湯も冷めたらもったいない。

「お腹すいてるんでしょ?ピザのデリバリーを頼んでおいた。その間にシャワー浴びておいでよ」

そう言って立ち上がり、天音は照れていることがばれないように平静を装った。

"もう後悔はしない"

天音はヨロヨロと自室に向かう藍を見送ると、遅い夕食を摂るための準備を始めた。
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