敏腕メイドと秘密の契約
「出かけてきます」

天音と藍が、ガーデニング中の天音の母親:笙子に声をかけた。

「二人揃ってずいぶん仲がいいこと。気を付けてね」

笙子は意味深な微笑みを浮かべて、薔薇の蔓を剪定しながら言った。

二人は天音の車に乗り込む。

「で、どこに向かえばいい?」

「三浦HS本社へ」

車はゆっくりと走り出した。



「ちょっと、社長!」

藍は三浦HSの社長室に着くなり、母であり社長であるありさに詰め寄った。

「ジョンが日本に来てるんでしょ、全部お母さんの差し金?」

天音は相変わらず訳がわからないという顔をしており、社長用の机に備え付けられた椅子に腰かけたありさは、口角をあげてニヤニヤしていた。

「何のことかしら?」

「あのルートクラッキングされたパソコン、導入部分こそ複雑な仕組みが張り巡らされていて難儀だったけど、中盤以降は明らかに私が知っているものばかりだった。」

「あんなのジョンと私しか使わない」

コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

「専務」

「John!」

扉を開けて、
倉本SEの専務:倉本忠志と藍の元ルームメートのジョンが社長室に入ってきた。
「l´ve missed you,Aoi!」
"会いたかったよ!藍!"

ジョンは入ってくるなり藍に抱きついた。そして頬にキスをしようとしたところに、天音が割って入る。

「She is mine. Don't touch her!」
"俺のだ。触るな"

独占欲丸出しの天音に驚いて、ジョンは目を見開いたが、すぐに肩をすくめて
"Sorry"と言った。

ジョンは35歳、藍が通っていた大学の"システム工学教授"で、藍にも並ぶ天才"ギフステッド"だ。

アメリカではかなりの有名人らしい。

藍に関しては、当時も今も、表立って騒がれてはいない。

本人と両親の意向で、
"アメリカにいる間、政府と大学以外には藍が今後残すであろういかなる功績も公表しない"
と大学側に約束させていたからだ。

藍は中学生の頃、天才ぶりが話題となり、一度誘拐されそうになったことがある。

だからこうして三浦HSの"extra"として働き、表沙汰にならないようにひっそりと仕事をしているらしい。

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