イジワルな彼は私を溺愛しています ②
「言わなくても手順は分かるでしょう?」

「……はい」

背中に変な汗が流れる。

私は極度の緊張から震える手で、畳んである着物を広げる。

着ている服を脱いで、袖を通す。

ゆっくり、手順を間違えないように細心の注意をはらう。

「……お見事です」

着付けが終わり、がかっりした事を隠しもしない先生の声を聞いてほっと息をつく。

「では、私はこれで失礼します。そろそろ、一家の皆さんが集まる頃ですので、食堂に向かった方が良いかと思います」

先生は部屋から出ていった。結局、先生は私の着付けをする気なんてなかったのだろう。

私は緊張で疲れた体を動かして、言われた通り食堂に向う。

食堂の大きさはお見合いをした部屋と同じような部屋で、会食などで使われる。

食堂というよりもホールと言った方が正しいが、ホールは別にあるために食堂と呼んでいるのだ。

食堂は大きな机があり、ちらほらと席がうまっていた。

私は上座の方にある自分の名前のプレートがある席に座る。

かなり視線を感じるが無視だ。

こういう時に親戚に話せる人がいないのはキツい。

父も母も兄もまだ来てないからいわゆるぼっち状態。

私には親戚に声をかける勇気なんて無い。

でも、これだけ親戚がいたら沢山お年玉が貰えるかもしれないなと淡い期待を抱きながら時間が過ぎるのを待った。
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