イジワルな彼は私を溺愛しています ②
「あ、あの、会長……ち、違いますからー、落ち着いて下さいー」
川谷先輩は和海から距離をとろうとするが、恐怖からなのか足が動いていない。
もちろん、すぐに和海に捕まった。
和海の口元は怪しい笑みが浮かんでいる。
これは、相当怒っている。
「俺は今機嫌が悪いんだ。これ以上怒らせないでくれ」
いつもよりも数段低い声。
この声は恐怖しか与えない。
「ひっ、わ、わかりましたからー。罰は嫌ですぅー」
川谷先輩は半泣きだ。
「嫌って言ったってしょうがないだろ。俺を怒らせたらそうなることになっている」
和海の目は本気だ。
川谷先輩は私に助けを求めるようにこっちを見るが、私だってとばっちりは御免だ。
「春樹、こっちを見ろ」
王様の声に川谷先輩が無条件に和海の方を向く。
「これから校庭10周な。俺が見張ってるから一生懸命走れよ?」
和海の顔は笑っているが、目は笑っていない。
「嫌だぁ…」
川谷先輩は涙声だ。
「嫌ならお前の秘密を……」
「ま、待って下さいー。わかりましたからー」
川谷先輩は涙目で校庭へ走っていった。
「会長、あんまいじめないでよ」
加賀田先輩が川谷先輩が走っていった方を見ながら言った。
「お前も一緒に走ってやるか?」
「い、いい……。遠慮する…」
加賀田先輩は逃げるように自分のデスクに向き直った。
和海は校庭が見える窓に立って、川谷先輩が走っている姿を眺めている。
私はそんな和海を見ながら、川谷先輩に同情した。
何にも悪いことをしていないのに、怒られてる川谷先輩は私と同じだ。
だが、今は他人事。
私は自分の仕事に戻った。