アヴァロンの箱庭
外で激しく雪が吹き付ける音と対比するように暖炉はパチパチと小気味の良い音を立て、部屋の中はじんわりと掌の中の様に温かい。

真冬と一緒にアップルパイの下ごしらえをしながら、イブはこの世界での生活がいかに楽しいかを子供の様にはしゃぎながら語った。

朝起きたら近くの小川に水をくみに行って、その水でお湯を沸かして体を洗う。

朝食のアップルパイを食べたら、屋根に上って雪かきをしたり辺りの林からリンゴを収穫する。

お昼になったら画材道具を抱えて雪原に出て、日が暮れるまで好きなだけ絵を描く。

そして真っ暗になる前に家に帰って……またアップルパイを食べてから、二階のベッドで静かな眠りにつく。
 
それは一見すると、御伽噺に出てくる森の小人の生活を体現したかのように穏やかで、満ち足りている様に思える。

が……真冬はどうしても彼女の言葉を肯定する気にはなれなかった。 

違う。そんなものはまやかしの幸福だ、僕たちはこの何もかも閉ざされた世界を出て行くべきなんだ、と――

彼は思わずそう言いかけ……先程イブに告げられた『この世界を出る為の条件』を思い出して、喉元まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。


『それはね――私を殺すことだよ、マフユ』


だから結局、イブとの会話もどこか余所余所しいちぐはぐな感じになってしまう。

「さっきからどうしたのマフユ? 何か悩んでいるの?」 
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