アヴァロンの箱庭
真理
それから数日は、イブと名乗る少女と真冬の奇妙な同棲生活が続いた。
 
イブの行動は自分で言っていた通り、まるで誰かに言いつけられたかのように規則正しく、律儀なものだった。

毎朝川の水を沸かして入浴をし、朝食のアップルパイを食べ、雪かきやらリンゴの収穫を昼までに済ます。

昼になると雪原に出てデッサンに没頭し、日が暮れる頃に帰ってきて夕食のアップルパイを食べ、そして幼い子供さながらに早めに眠ってしまう。
 
たまに激しい吹雪で外に出られない日があると、代わりにアトリエにこもって絵を描くこともあった。

その時は幾度となく真冬がモデルをさせられた。

基本的にイブはデッサンしかできないので、今までアトリエで絵を描く時のモデルがいなくて困っていたらしい。

「じゃあ、今まではアトリエで何を描いてたの?」
 


豪雪が吹き付けるある日。

アトリエの中央で椅子に座り、黙々と自分をデッサンしているイブに向かって真冬は尋ねた。

「今まで自分が描いた絵よ。他に家の中で描けるものってなかったから。それにね、何度も重ねて同じ人の絵を描けば、よりその人は死なずに済むようになるんじゃないかって。そんな気がして」

「だったら、ここで僕の絵を描いていることは無意味じゃないかい? 僕は氷漬けになんてなってないんだから」

「ううん、これは単純に私の趣味。だって、ついつい絵にしちゃいたいくらい真冬って綺麗なんだもん!」

「ぼ、僕は綺麗なんかじゃないよ……この世界や、イブに比べれば、全然」

「いーの! 私がそうしたいと思ってるんだから!」
 


そしてまた黙々とカンバスに向かうイブを見て、真冬はやれやれとため息をつくのだった。
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop